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高橋の作品が大賞に選ばれたのは、素直に嬉しかった。
最初に高橋から受賞の連絡が来たときは、詐欺か何かにあっているのではないかと疑った。しかし、数日後、週刊誌の受賞者の一覧に高橋の名前があるのを見て、彼の言うことが本当だということが分かった。
まさか受賞するとは思わなかった。もちろん良い作品にしようという思いはあったが、大賞に選ばれるとは夢にも思わなかった。きっと、高橋には才能があったのだろう。
彼から、原作者として名前を載せたいという申し出があったが、俺はすぐに断った。そんな風に世間に注目されることは好きじゃないし、何より今後も高橋と漫画を描くとかいう話になるのは勘弁してほしいからだ。
その時、高橋からラインが届く。
”僕のインタビュー記事、読んでみて”
そんなメッセージと共に、URLが送られてきた。それをクリックすると、あるサイトに移り、大賞インタビューという文字と共に、高橋の名前が目に飛び込んできた。
そこには記者の質問と、高橋の回答が載せられている。過去の経験や、漫画に対する想いなどが、ずらっと書かれている。あまりにそれっぽい文章に、俺は思わず笑ってしまう。何だか、手の届かない人になったみたいじゃないか。
その時、記事の中に「大事な友人」という文字を見つけた。続きを読んでいくと、その内容に「こいつ!」と思わず叫んでしまった。
そこには、漫画の原作は友人の小説である、と書いているのだ。
あのやろう。あれだけ俺のことは言うなって念を押したのに、ばらしやがった。また電話で怒鳴ってやろうと思ったが、続きの文章に目が奪われる。
”その人は、小学校の同級生なのですが、僕にとっては絶対に忘れられない友人です。小学生の僕は、一人も友達がおらず、休み時間はいつも一人でした。そんな中、孤独な僕を誘いだして、仲間にいれてくれたのが、彼でした。僕にとっては、一生忘れられない友人です。その彼と、こうして一緒に漫画を作り上げることができたのは、僕にとってこれ以上ない喜びです”
その文章を何度か読み直す。胸の奥に、ぽっと温かくなるものを感じた。
その後はいくつか質問があって、一番下に高橋の経歴が書かれていた。その横には、はにかんだ表情の高橋の写真があった。久しぶりに見る彼の顔を見て、俺の頭に小学校の記憶がよみがえってきた。
教室で、いつも一人でいる高橋、あまりに可哀想に見えてドッジボールに誘ったんだ。もしかしたらあいつは、あの時の借りを返すために、やさぐれていた俺に漫画を共同で作ることを提案したのだろうか。
俺は画面をスクロールさせ、彼の記事を読み返していった。子供の頃の友達も、悪くないかもな。俺は、彼の記事を読みながら、そんなことを思った。
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