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子供の頃の友達ほど信用できないものはないと思っていた。
俺は昔から友達が多かった。小学校から大学まで、だいたいクラスでも大きいグループに入り、友達に困ったことはない。
それは社会人になってからも同じだ。起業するという俺に対して誰もが応援してくれたし、時には「どんなことがあっても見捨てない」と言ってくれることもあった。不安でいっぱいだった俺が、どれほどそういった言葉に救われたことか。
ところが、状況は一変した。最初は順調だった会社の経営は傾き、いつしか借金が膨らみ、取り返しのつかないところまで落ちた。会社は倒産、俺の手元には千万円を越える負債だけが残った。友達は皆、鮮やかに手のひらを返した。ぱったりと連絡を絶ったものもいたし、徐々に疎遠になったものもいた。確かなことは、一年たって交流がある人間は、借金の取り立ての人間だけだということだ。
「たかし、小学校の同級生って子から電話よ」
夢に破れて友人にことごとく見捨てられ、実家に帰ってきた俺の元に、一本の電話がかかってきた。
「同級生?」
俺の言葉に母は大きくうなずいた。
同級生という言葉に、不快な気持ちになる。今日までに、同級生がいかに信用できないかというのを嫌というほど味わってきた。このタイミングで電話があるとして、良い知らせであるはずがない。
「すぐ出るよ」
俺は電話台の前に立つ。保留ボタンが点滅していた。一つ深呼吸をしてから、受話器を取る。
「もしもし、坂上孝史です」
そう言ったものの、何も返ってこなかった。
「もしもし、聞こえますか」
「あ、うん。ごめん。聞こえてるよ」
か細い声が聞こえてきた。
「久しぶりだね。坂上君。高橋だよ。小学生以来だね。実は、一つ話があって電話したんだ。その、ネットに投稿されている坂上君の小説を読んで、思わず電話しちゃって」
小説。
そう言えば数年前に小説投稿サイトに自作の小説を投稿した気がする。一時期、小説を執筆することにはまっていて、遊びで投稿したものだ。あんなもの、まだネット上に残っていたのか。
「実はね、僕、漫画を描こうと思っているんだけど、絵は描けてもストーリーが思い浮かばなくて、それで、坂上君の小説を読んで、このストーリーで漫画を描いたらすごく面白くなりそうで、それで、描かせてもらえないかなと思って」
俺は高橋の言葉をじっと聞いていた。脈絡ない話を頭で整理し、何となく事情が分かってきた。
急に電話してきて、俺の小説を元に漫画が描きたいなんて、あまりにうさん臭い。そして、こいつに一つ聞いておかなければいけないことがある
「なあ、一つだけ質問しても良いか」
俺の言葉に、彼は「うん。どうぞ」と答える。
「高橋って、誰だっけ?」
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