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「な、んで」
ようやく出た声が震えた。
夏なのに一瞬にして体が冷え切ってしまったようで、身体も震える。
「あの年にね、大きな台風があって。京香ちゃん一家は、佐藤さんご夫婦が心配でこっちに向かっていたらしいの」
実家に住む老夫婦の家が台風で壊れてしまったらどうしよう、避難するにも二人じゃ困るだろうと。
キョンちゃん一家は台風が荒れ狂う中、こちらに向かっていたらしい。
「途中の山道で土砂崩れがあったんだよ、……たった一台の車がね。たったの一台だけなんだよ、巻き込まれてね。埋まってしまって。それが京香ちゃんたちの乗っていた車で」
ばあちゃんから顔を背け、落ちてきた涙を拭いた。
微かな記憶の彼方を思い出す。
『京香ちゃんはね、お空に行っちゃったの。だから、もう遊べないんだよ、リッちゃん』
キョンちゃんと遊びたいと泣き喚いた私に、ばあちゃんが今みたいに悲しい顔をして諭してくれたこと。
ごめんね、キョンちゃん。
私、キョンちゃんが来れなくなった理由を忘れていたんだ。
キョンちゃんのことも、ずっと。
……忘れていたのかな、それとも。
信じたくなかったのかもしれない。
キョンちゃんと遊べなくなったことが悲しすぎて。
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