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ぱしゃんと水面から顔が出て、私は目を瞬く。
まつ毛の水滴をとるためではなく、地上があまりにもまばゆかったから。青い影が揺蕩う水底とは違い、外は痛いほどに明るい。
私は体をぶるりと震わす。風が私を撫でたのだ。
頭を振って周囲を確認しようとした時、かくんと体が傾いた。え、と思う間もなく空中へ浮かんでいく。
「う、あ」
言葉ともつかないうめき声が口から漏れる。自分の声を久しぶりに聞いた。
こんな声だっただろうか。水底じゃあ、声なんて聞こえないものなあ。話す相手もいないのだし。
そんな呑気なことを考えている間に、すっかり水面から遠ざかってしまった。日の光に輝く水面が、ずんずん小さくなっていく。私は慌てて辺りを見回した。
すると、他にも浮上している仲間がいた。
私は少しだけほっとする。一人ぼっちよりはマシだ。けれども、チンプンカンな状況であるのとには変わらない。
どうしたものか、と私は途方に暮れてしまった。
心許ない浮遊感に、水中ではのし掛かるような重さがあったのだと、初めて気付く。中にいる時は全く気にもしなかったけど、こうして離れてみると、それがいかに安心を生んでくれていたのか分かった。
地上はどんどん離れていく。水面はすでに見えなくなっていた。
もう、あの子には会えないのかな。
こんなに遠くへ来てしまったのじゃあ、あの子が私を見つけるなんてできやしない。私は水から出られなかったから、あの子が普段どこにいるのか知らない。会うためには、あの子に来てもらうしかないのに、これじゃそれも叶わないだろう。
あの子には、もう会えないのだ。
そんなのはいやだ。私を水に戻して。こんな、ふわふわと心細いところにはいたくない。
じたじたと暴れてみたけれど、効果などあるはずもなく、私はさらに頭上へ浮かんでいった。
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