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そういえば。
暴れ疲れた私は大人しくしている。何もすることがないので、ぼうっとしているとふいに思い出した。
そういえば、前にもこんなことがあった気がする。この、心許ない感覚は以前にも覚えがあった。あれは、いつのことだったろう。
ぎゅっと目を閉じて思い出そうとするが、だめだった。うんと昔なのは分かるのだけれど。私が物心つく前だったろうか。こんなに、薄らぼんやりとしか記憶に残っていないのだから、そうなのかもしれない。
その時はどうしたのだったか。私はどうやって水に帰ったのだ。思い出せない。思い出せないと、あの子に会えない。
ああ、また悲しくなってしまった。
私は足を抱えて丸くなる。そうやって世界を遮断すれば、今いるのが空中だと忘れられる気がしたのだ。
でも、訳の分からない場所にいて視界を閉ざすのは、それはそれで不安で。ちらりと腕の隙間から、周囲の様子を覗った。
すると、何かが横を通り過ぎていった。というか、落ちていった。
驚いて落ちたものを目で追う。けれども、それはもうすっかり小さくなってしまって、正体を確認することはできなかった。
何だったのだろう、今のは。
上空を見上げてみると、黒点がぽつんとあった。黒点はみるみる大きくなって、それが仲間だと認識した時にはすでに私の側を落ちていった後だった。
驚いて身をすくませていると、また誰かが落ちていく。目で追う間もなく、さらにバラバラと落下していった。その様子はまるで……
ああ、と私は思う。
そうだ、思い出した。
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