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ぱた、という軽やかな音がした。
あたしは冷蔵庫を漁っていた手を止めて、音の出所を探る。
ともすれば聞き逃してしまいそうな程小さなその音は、どういうわけか、あたしの耳にやけにハッキリと届いた。
視線を彷徨わせているとまたぱた、と聞こえる。さらに続けて、ぱたたたと鳴った。
庭に面した窓が濡れている。つう、と水滴が流れ落ちた。その滴が落ちきらないうちに、再び水滴が打ち付けられる。
「降ってきた」
あたしは冷蔵庫を閉めると、窓に近寄った。ガラス越しに庭を眺める。
うちの家は古く、庭は広い。専門の店からあつらえたのか、それともどこかから拾ってきたものなのか知らないが、大きな庭石があったりする。植木なんかもある。名前が不明な木の側には、小さな池もあった。
子供の頃はこの池でよく遊んだ。ザリガニを釣ったり、蓮の花を観察したり、オタマジャクシが孵るのを見たり……懐かしい。
ぼんやりとそんなことを考えていた時、窓ガラスに水滴がぶつかる。ぱたぱたとリズミカルに当たる滴は、なんだか楽しそうに思えた。
だからかな。
あたしは何の気なしに窓を開けて、外へ手を伸ばしてみた。
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