くるくるめぐる

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 ぱた、という軽やかな音がした。  あたしは冷蔵庫を漁っていた手を止めて、音の出所を探る。  ともすれば聞き逃してしまいそうな程小さなその音は、どういうわけか、あたしの耳にやけにハッキリと届いた。  視線を彷徨わせているとまたぱた、と聞こえる。さらに続けて、ぱたたたと鳴った。  庭に面した窓が濡れている。つう、と水滴が流れ落ちた。その滴が落ちきらないうちに、再び水滴が打ち付けられる。 「降ってきた」  あたしは冷蔵庫を閉めると、窓に近寄った。ガラス越しに庭を眺める。  うちの家は古く、庭は広い。専門の店からあつらえたのか、それともどこかから拾ってきたものなのか知らないが、大きな庭石があったりする。植木なんかもある。名前が不明な木の側には、小さな池もあった。  子供の頃はこの池でよく遊んだ。ザリガニを釣ったり、蓮の花を観察したり、オタマジャクシが孵るのを見たり……懐かしい。  ぼんやりとそんなことを考えていた時、窓ガラスに水滴がぶつかる。ぱたぱたとリズミカルに当たる滴は、なんだか楽しそうに思えた。  だからかな。  あたしは何の気なしに窓を開けて、外へ手を伸ばしてみた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加