2人が本棚に入れています
本棚に追加
幼い頃、ずっと一緒にいた幼馴染とは、言い争いばかりしていた記憶がある。幼稚園で描いた似顔絵の上手さとか、お弁当を食べる早さとか、そんなくだらないことでムキになって、数日口をきかなかったこともある。
そんな数あるくだらない争いの中でも特に不毛な争いだったと思うのは、背の高さだった。幼稚園の頃の男女の身長差なんて微々たるもの。それを私達は会うたびに言い争っては近くの大人に判断を委ね、負けたと分かれば大声で騒いだ。それを微笑ましげに眺める親の表情を覚えている。
「俺、遠くに引っ越すことになった」
ある日、突然幼馴染にそう言われた。幼稚園を卒園する年の夏だった。
「遠くって、どこ?」
「東京だって。こことは全然違って、人もいっぱいいるんだって」
彼は空を見上げながらなんでもないことのように言った。
「ふーん」
私も、あまりきちんと実感していなかったんだと思う。だから、彼の真似をして空を見上げた。ひまわり畑の真ん中。空を遮るような黄色。立ち上がっても、その黄色には手が届かない。もしかしたら、彼もそうなってしまうのだろうかと思った。手を伸ばさずとも触れられるような距離で育ってきた私達。それなのに、もうすぐ手を伸ばしても届かない場所に、彼は行ってしまうのだろうかと。その時、少しだけ実感がわいた。
「ねぇ、会えなくなるのかな?」
私の問いに、彼は「んー」と曖昧に声を漏らした。待っても明確な返事が返ってこないのがもどかしくて、彼の顔を見た。そこで、初めて気づいた。彼が、必死に涙を堪えていることに。それに気づいてしまうと、耐えられなかった。泣き出してしまった私に、彼は目を合わせる。
「約束、しよ」
そう言って、小指を差し出す。
「このひまわりぐらい背が高くなったら、ここに会いに来よう。どっちが先に来るか、勝負」
その言葉に、「うん」と力強く頷いた。彼の小指に自分の小指を絡める。
「絶対、約束」
彼は、最後まで泣かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!