moonlight shadow~悪魔の誤算~

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「え…?」 俺は間の抜けた返事をした 「昔の…恋人もね… 身体や腕に、同じ傷があったの…」 俺の身体には、悪魔になる前、自分で自分を傷つけた傷が沢山ある 人間の時に付いた外傷は、悪魔の姿になっても、例え人間の姿に自分を変えても消えないと、最初に悪魔の世界に来た時に悪魔連中に教えてもらった事だ 人間の時の戒めだと言っていたな 「こういうことしなきゃ生きられない人もいるんだよ」 俺がそう吐き捨てるように言うと、女の方からふふ、と笑い声が聞こえた 「…彼も、私の恋人だった彼も、同じこと言ってた 市民プールで… 『こういうことしなきゃ生きられない人もいるんだよ』 って… 何かその傷の感じ… その言葉… 懐かしいな… 浩司みたい…」 その瞬間、俺の頭の中に断片的なヴィジョンが入り込んできた 邪魔する建物は何もない平地 青い山並みが遠くの方に広がる 近くには一級河川、広瀬川が流れている タイルの隙間から雑草が伸び、所々茶色く錆びた鉄骨 塩素の、香り この… 記憶… 「と言うか… あなた浩司じゃないの…?違う? あの夢… あなたが私に見せてくれたあの夢 愛する人の思い出や記憶を見せてくれるって 言ってたよね…? あの夢、すごく臨場感があって あなた目線であなたを見ているというか… 夢を俯瞰して見ている状態…というのか… そう言うの…なんて言ったっけな… 忘れちゃったけど… …そう、夢を夢と認識出来た 私の愛する人… それって、つまり… あなたの… 浩司自身の、記憶や思い出なんでしょ…?」 そうか… 俺は… その瞬間、俺の心臓が大きく脈を打ったような感覚がした 「あ… 浩司… なんか… 急に… 眠くなっ…ちゃった」 息が、苦しい… 「寝…ちゃ…だ…め」 声が、出ない… 俺は咄嗟に、相手の腕に鋭い爪を立てた えぐられた皮膚から血が滴る 寝るな…! 瞼がかすかに動いたが、それでも、彼女の目は開かない もう… 立っていられない… 「ウウウ…」 獣のような低いうなり声をあげて俺は倒れ込んだ 肩で息をする なんだ…この鉛のように重たい身体と…滝のように滴る汗は… まずい… 身体がはち切れそうだ…! そのまま至る所の壁に身体をぶつけながら、建物の外に飛び出た ここより、遠くへ…! しかし、急に役立たずになってしまった己の翼を、木の枝が次々に貫く 俺は飛び立つことを許されず、そのまま建物の近くの茂みに落下していった
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