moonlight shadow~悪魔の誤算~

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月が身体を照らす 艶のある漆黒の身体 遠くからでもわかる光る瞳 どこからどうみても、ただの黒猫だ これからどうしたら… どうやって… どうやって生きていけばいいんだろう 尻尾を力なく下げて、とぼとぼと歩いた その時 何かが身体に当たった 小さな小枝 尻尾を体に巻き付けながら、枝が当たった方向に振り向いた 「浩司」 ハッとした それは、俺の名前だった 暗闇から聞こえる、枯れた草木を踏み潰す足音 月の光が、下からゆっくりとその人物を照らしていった …誰だ…? 見たことのない顔 でも 明らかに俺の名前を言っていたし 猫の俺が、浩司だと知る人物、という事だ 「…トリガーは発動しないのか」 トリガー… 「やあ浩司、俺だよ、鬼龍だ」 鬼龍…! 「転生した先の人物の顔に寄ってるから 見た目は鬼龍じゃないんだけどさ」 転…生…? 鬼龍は座ると、俺の頭を撫でた 俺はその手に額を押し付けた 「俺は浩司のお陰で、また、人間の世界に戻る事が出来た」 俺のお陰…? 「悪魔の世界で浩司と会った時、浩司が俺の名を呼んでくれただろう…? そのきっかけ(トリガー)で、俺は、俺自身の記憶を、思い出す事が出来たんだよ あの頃は… 死んだときは、生きるのが嫌で、この世界が憎かったけど 今はこの世界で精いっぱい、天寿を全うしたいと思っている 俺は浩司に救われた だから、今度は俺が浩司を助けたい」 え… 「浩司の恋人、置いてきちゃったんでしょう…? 今は…悪魔の世界に」 秋… 「みゃー…」 でも、どうやって秋に逢うのか… もうわからないよ… 「これは、一つの可能性…なんだけど 猫として 浩司が自殺をするんだ」 え 「そもそも死を認識できるのは人間のみで、知能の低い動物ではそのような現象は起こりえないとされている、らしい が… 今回は、猫の中身は知性のある人間だ… そう考えると… ”自殺”と言う方法で死ねない事はない だって 自殺か、悪魔の薬を飲めば、悪魔の世界に行けるんだから そうでしょう?」 確かに… 言われてみれば… でも…色々疑問と不安は残る その方法で死んだとして、動物である猫が悪魔の世界に行けるのか、とか 低俗悪魔以下の存在があるのだから、さらにそれよりも下の階級があったとして、その世界に堕ちてしまうんではないのか、とか そしたら今度は、もしかしたら無機物になってしまうんじゃないのか、とか 鬼龍が俺を貶めるための嘘、なんじゃないかとか… と言うか鬼龍と言ったが、この人物は本当に俺が知る、中学の同級生だった鬼龍なのか、とか… 「悪魔の世界に浩司が戻れれば… そこにはきっと、悪魔になった浩司の恋人もいるはずだ 彼女を見つけて記憶を取り戻し、一緒に… 神と出逢って…こちらに戻ってくるんだ」 神…? 悪魔の世界に、神なんかが存在するのか…? 「その神は、悪魔にはその姿が見えないと言っていた 悪魔は夢を見れないから、と 俺はそいつに出逢って、人間の身体になったんだよ 自殺する前の自分の身体に… その神は、俺を人間界に転生することが出来ると言ったんだ だから俺はその神に魂の姿にしてもらい、人間界に転生した だから浩司も こちらの世界に…人間界に転生して、戻ってこれるはずだ」 色々聞きたいのに、人間の言葉が出ない、人間の言葉が書けない… 考えても…どうしようもない 今の俺は 鬼龍の意見や、経験を信じるしか そうするしか 前に進むしか、道がないんだ 「何かあった時の為に、猫の身体は回収して病院に直ぐ行けるように手配をする」 「みゃー」 俺は鬼龍の足元に頭突きをして、夜道を国道に向かって歩き始めた 車のヘッドライトや、テールランプが行き交う 俺 何回死ぬんだろう
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