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あの薬は死ねる薬じゃない
新宿の街を歩きながら、私は薬屋の彼の店へ向かっていた
さしずめ、そう、睡眠薬か何かだろう
だって、身体はぴんぴんしてるし、どこにも不調がない
まあ、少し気怠いくらいか…
それでもいつもの、今までの私と身体も体調も変わらない
ビルとビルの隙間に、あの小さなバーを見つけた
相変わらず重たい扉を開ける
中に入ると店は真っ暗だった
あれ?いないのかな?
「すみませーん!」
暗闇の中叫ぶ
お店がやってないと、薬もくれないのかな…?
私は意気消沈して、ゆっくり扉を閉めた
「なんか用かな?」
「わっ!びっくりしたー!!」
後ろを振り返ると、薬屋の男がいた
またあの不適な笑いを浮かべている
「もしかして、薬が欲しいのかな?」
「…そうよ、身体もまた差し出すわ」
と言ったところで、昨日薬の代金の代わりに身体を差し出したわけだけど、私は彼としたのだろうか?
と、疑問がわいた
目覚めたところは自室のベッドだったけど、薬屋の彼の姿はどこにもなかったし、そもそも薬を飲んでからの記憶がない
覚えているのは元彼の姿だけだ
「どうかしたの?」
彼がいぶかしそうに私の顔を覗き込んだ
「…別に
それより、どうなの?」
「交渉成立だね」
なんだ、それは
いいって事の返事なのか
「入って」
彼は重たいバーの扉を開けて、電気をつけた
店内はカビ臭いような匂い
エアコンがつき、快適な温度になっていく
「聞きたい事があるんだけど」
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