moonlight shadow~悪魔の誤算~

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ここは…? 私は気付くと不思議な場所にいた 綺麗な夕焼け空に、色とりどりの花が咲き乱れ、蛍が飛び交い、小さな虫の鳴き声がする 「…この花 ケシの花だ…」 ”ケシの花 悪魔の世界に唯一咲いている花” 頭の中で、悪魔…と言うか浩司が言っていた言葉が浮かぶ 「ここって…」 「ようこそ、悪魔の世界へ」 「浩司…!?」 「…浩司…? もしかして、浩司って… こんな顔をしているのかな…?」 振り返る 「浩司…」 目の前には、高校の制服を着た浩司がいた あの頃の あの時のまま、逢いたかった浩司が目の前にいた 「浩司… 本当に… 浩司なの…?」 浩司は微笑んだ ああ、浩司… 「浩司… あの頃みたいに… 私の名前を呼んで…」 浩司に手を伸ばす 「…名前…は… …。」 (秋、そんな悪魔に騙されるな!) 聞き覚えのある声が、静かな水面に一滴の雫を落としたかように、頭の中に波紋を広げる 秋…? 秋って… 秋は… あ… 頭の中に、秋と言う人間の記憶や思い出が入ってくる そうだ、私は… 三ノ輪橋秋だ そして、さっきの声は… 辺りを見渡すと、色とりどりのケシの花が咲き乱れる中、一点、漆黒の身体をした猫がいた (そいつは俺じゃない、悪魔が俺の姿になっているんだ) 猫から発せられた声が、私の頭の中に聞こえて来る この声… やっぱり… 「あなた 浩司…なの…?」 私がそう言った瞬間、その黒猫は私の隣にいた浩司と同じ姿になった 「ふん しぶとい男だねえ…」 私の隣にいた浩司は顔をぐにゃっと曲げたかと思うと、銀縁メガネをかけて髪をウエーブさせた見たことのない男の人になった 顔が…変わった… するとその男は私の両肩を勢いよく持つと、にやっと笑った え…? 思い切り押し倒され、そのまま男と共に身体を回転させながら傾斜を降った 「きゃあ!」 「秋!」 降りながら花を踏み倒し、花びらが空を舞う 私の肩を持つ男の力がより一層強くなって、滑り落ちていた身体が止まった 馬乗りになった男の顔を見上げる え… そこには、私がいた 私と目が合うと、そのもう一人の私が またさっきのように、にやりと笑ったんだ 駆け寄ってきた浩司に、もう一人の私が言う 「浩司助けて!」 私と同じ…声… 「…え、浩司…違うの…彼は私じゃなくて、私の真似をしていて…」 「そう言って、悪魔は直ぐ人を騙して、嘘を吐く!」 な…! なんなのこの人… どうしてこんな事… 「ち、違う私が…!」 「ねえ、浩司 浩司は本当の私がどっちだか… すぐ、わかるでしょう…?」 私の顔をした男は、私を制しながら浩司に聞いた 浩司は目を細めて黙った 浩司… 「当たり前だろ 悪魔に成っても、人間の時につけた傷は消えない …そうだったな?」 「なっ…」 そう言った、私の顔をした男の、異様に長い犬歯が口から覗く 浩司が私の手を優しく引っ張って、引き寄せた 「ごめん 俺が病院で、秋の腕に爪を立てた傷… 残ってしまったな…」 浩司が私の腕を取って、困ったような顔で傷口を眺めた 「いいの… いいんだよ… 浩司…」 目と目が合って、その身体の温もりを確かめようとした時 突如、辺りが朝もやのような、濃い霞がかかった世界になった 「えっな、なに…!?」 「何も見えない…」 お互いの姿がわからなくなる 私の顔をした男の姿も見えなくなった 視界が悪い 浩司と私の手が離れる 「あ…!浩司…! 浩司、何処…!?」 「秋…!」 え… 身体が熱い… 重い… 思わずその場に膝をついた この霧… 自分の身体から出てるの? 何…?
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