moonlight shadow~悪魔の誤算~

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白い靄の中 必至に視界を巡らす ここ何処… それに… 何処にいるの…?浩司…! その時、目の前に人影が現れた 「…浩司…!?」 「私はモルフェウス」 …モルフェウス? その言葉と同時に目の前の霧は晴れ、また先ほどこちらの世界に来た時と同じ景色が広がった 夕焼け空に、ケシの花 …あれ? よく見ると、懐かしい高校時代の制服を着ている自分がいた 今は廃校になってしまったけど、公立の割に翡翠色のチェックの制服は可愛くて気に入っていたんだ でもなんでこんな格好… 「秋」 私を呼ぶ声 ハッとして、声の方を見上げた 「浩司…!」 私は浩司の元に駆け寄って抱きしめた 感じる体温 温もり 香り 息遣い 「秋…」 「浩司…」 やっと触れ合えた浩司の身体 この手で… 「ここは私が魅せる、夢の世界 悪魔には私が見えない 悪魔は夢を見ないからだ」 モルフェウスは言った 夢の…世界… 「悪魔でなくなったものは、夢の世界に来ることが出来る そして、この夢の世界では二つの生き方がある」 二つの…生き方…? 「一つは、今目の前にいる大切な人と、そのままの姿でこの世界で 永遠に、ずっと幸せに過ごせる 苦しみも悲しみもない、単調だけど安全で安心で安定した… そう、まさに人間が追い求めている、アルカディアのようなものだ この世界は永遠に終わりがなく ずっと夢の中で生き続けられる だが 成長も発展も希望も 未来もない そしてもう一つが、転生をして、また人間界で生きていく生き方だ その世界は、成長も発展も希望も 未来もあるだろう だが 転生をすれば、今のままの姿ではなくなる そして、人間として人生をやり直すのは また苦しみや悲しみを伴う事もあるだろう それでも、転生をする覚悟があるか 汝らは、どちらを選ぶ?」 そんな… やっと やっと… 浩司と 浩司と出逢えたと思ったのに… なのに… それが… 転生すれば人間には戻れる けど今のままの姿ではなくなるらしい 私は、別にいい… 元々…余命もなくて 死ぬ予定だった身体 でも… 「転生した後記憶は…?悪魔になった時や、その前の人間だった時の記憶は残るの…?人間界でも、浩司と一緒にいれるの…?」 「転生した後もしばらく記憶はあるが、それも最初の方… 幽世(かくりよ)の記憶や思い出も、やがて消え、忘れゆくだろう…」 え それって… 転生したら、浩司とはわからなくなってしまうという事…? と言うか、それって転生したら浩司とは一緒にいれないという事だよね? 「そんな…大体前世の記憶を引き継いで転生とかってなるんじゃないの…?」 「それは、アニメや漫画、ファンタジー世界の話 そうしないと話の整合性がとれないから、物語の便宜上ってだけだ 大体の人間は、前世の記憶を明確に事細かに覚えていることなどほぼ皆無に等しい 新たな人間として、人生をスタートさせる、それが人間界の摂理」 だったら… そんなんだったら私は… 人間界に戻る理由も、ない もう浩司に逢えたから… やっと、逢えたから… だから… だから私はこのまま… 浩司の記憶が 思い出が ずっとあるまま…ここで… 「生きよう…」 え? 「何かの本で読んだことあるんだ そう言うの…ソウルメイトって言ったかな… 前世で会う約束をした二人は、来世、つまりこれから転生した世界でも 巡り合えると…」 浩司はそう言うと、私の指に自分の指を絡め、そして優しく握った 「だからまた、逢える きっと」 そんな… 「そんなの… 信じられない… 今、既にあなたは、私たちはここにいると、やっと出逢えたというのに… なのに…! 浩司はそれでいいの…!? 夢でもいい 私は… 浩司とずっと一緒にいれるなら、ずっと夢の中でいい!」 「俺は… 未来がないなら そんな世界には居たくない 俺は秋と一緒に、未来を歩みたい 前世で、歩めなかったから」 私と一緒に…未来を… 「転生をして、人間界に戻れるのなら… その未来が…もしかしたら歩めるかもしれないんでしょ…? 夢の中で生きるのは、楽しいよ この世界では 秋とも、ずっと、このまま永遠に一緒にいられるんだろう? でも 覚めない夢は、どんなにいい夢だとしても 悪夢だ」 悪夢… でも 「でもそれだと、忘れちゃうんだよ…? 何もかも…」 ぽたっと、頬に涙が伝って落ちた 「俺は 例え秋との記憶を忘れてしまったとしても 秋との未来が歩める可能性のある方に、進みたい」 浩司が、涙の伝った私の頬を、優しく撫でた 未来が歩める可能性のある方に… 浩司 私も、もし未来が歩めるのだとしたら 未来を歩みたい 貴方の隣を 貴方と一緒に歩みたい そんな未来が…本当に、あるならば… 「…モルフェウスって言ったっけ…?」 私がそう言うと、モルフェウスは私を見た 「私たちを、人間界に転生して」 「覚悟は決まったか」 そんなもの… 「ないない、全っ然ないわ! でもこんな、あなたが作った夢の世界にいるより 現実の世界に行きたいのよ! 現実の世界には、未来があるんでしょ!?」 未来があるかだって 本当はわからないじゃない このモルフェウスとか言うやつの嘘かも知れない でも、本当かもしれない… もうわからないよ でも… この世界にいるよりは、可能性がある そうでしょ…? 私は浩司を見つめた 「では今から、汝らをを魂の姿にし、人間界に転生をする」 モルフェウスがそう言うと、目の前に閃光が広がり、私は目を閉じた 再び目を開けると、世界が小さな欠片になって、ゆっくりと四方八方に飛んで消えていっていた 「ああ…」 そして、私たちの身体も… 私たちは互いの手を合わせ、寄り添った 「消えていく…」 「そうみたいだな」 「浩司…私…」 怖い… 今更… そう思った時、浩司が私を抱きしめて言った 「また、あの田舎町で あの駅で、何もない駅でさ 今度は、お互いが同じクラスで、同級生で… 一緒に登校したり、帰ったり… 隣にはいつも、秋がいて そんな未来だったら いいな…」 「あっ、それいいね…! 私もそんな未来だったら、いいな! …そう、それで…」 一緒の電車で帰りながら、待ち時間にさ 船の絵が描いてあるチョコレート食べて… あれ…? 何の記憶…?
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