in memory

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彼女… 何処かで会ったことあるような… 初めて彼女に会ったのは、高校三年になって、クラス替えをしたとき 栗色の髪の毛 何処か、遠くの世界で会ったことあるような、そんなノスタルジックな気分にさせるような人だった その子は俺が朝学校に行くと、いつも一人、教室にいた そしていつも彼女は何かに向かって、一心不乱にペンを走らせていた その顔は真剣な眼差しだけど、とても楽しそうで 瞳が輝いて見えた 初めは集中している彼女の空気を壊しても悪いと、隣の空き教室でHRまで時間を潰していたが いつも何に向かって一心不乱になっているのか気になって 俺はいつからか、いつもよりかなり早く家を出るようになった 学校に着くと、彼女はいなかった まだ登校してきていない 俺が一番乗りになったんだ ベランダで、大学の過去問が載っている本を見た そうしてしばらくすると、彼女が教室に入ってくる そして、気付くと何かに向かって一心不乱にペンを走らせていた またあの瞳… その瞳を見ていたら、声をかけるタイミングを失った そして、いつのまにか俺はこの時間が好きになっていた 本を持つだけで集中していない耳から、彼女の方から聞こえるシャーペンを走らせている音を聞くのが、心地よかった 別に、彼女が何に向かってあんなに集中しているのかとか、どうでもいいか… そう思った頃 雨上がりの翌日 急に暑くなった日差し 俺はブレザーを脱いで、それを枕にしてベランダに寝転んだ 強めの風に、大きな水たまりの水面が揺れる あけ放たれた教室の窓のカーテンが、大きく揺れた 俺の目の前に、一枚の紙が落ちて来た 本を閉じて拾う 「この紙…」 それは、彼女が一心不乱に書いていたものの正体だった 立ち上がって教室を見るも、誰もいなかった 俺は自分が見ていた本にその紙を挟んで、自分の席に着いた 放課後 やや早歩きで、校門の方に向かっている彼女を見かけた 本に挟んだままの、紙 彼女に話しかけるのは…今しかないんじゃないか…? 「ねえ!」 彼女が振り返った あれ… デジャブ…? 一瞬、どこかで見たことのある景色の気がしたけど…思い出せない 俺はこの情景を 何処かここじゃない世界で、見たことあるような気がした やっぱり… 思い出せないな… でも 彼女を見ると この どこか懐かしくて 温かくなる気持ちは 忘れたくない そう、思うんだ
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