シーン

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 テレビだったか、漫画だったろうか、今はもう憶えていないが、目の前で知らない心理学者がしたり顔でこう言っていた。 『不幸のシーンで泣くのは、その不幸を経験したことない、経験することがないからだ』と。  そんな言葉が頭からこびりついて離れず、今でも思い出す。  それは映画のワンシーンを観ている時でさえ邪魔をする。 『主人公が撒いた善が伏線のように周囲を惹き、彼に手を差し伸べるシーン』、『本音で語らい、悔し涙を流しながら友情を育むシーン』、『愛する人との今生の別れのシーン』、『家族を守り、知らない土地へ去っていく親子のシーン』  そんなシーンに、役者のトーンに私は目を凝らし、強張らせた瞼から涙が溢れ出して頬へと流れ出す。  そんな綺麗なシーンなのに、その度冷静な自分があの言葉を呟いている。 『不幸のシーンで泣くのは、その不幸を経験したことない、経験することがないからだ』と。  そして私は気づく。  どうも私は、人と人が渾身の泥だんごを作り、それを投げ合うような関係に、出来事に弱く。嫉妬しているらしい。
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