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1.おともだち
友達、の概念とは。
そんなことを考える前に、知らず知らずのうちに刷り込まれる。
『お友達』という存在。
「ほら、コウスケ。おともだちよ」
母親はそう、我が子と同年代の子どもを表現する。
顔見知りですらない、初めて会った相手であるのに。
――うわぁ。
浩介は公園で一人、ぼんやり十数メートルほど前にいる子ども数人とその親と見られる大人たちを眺めていた。
わずかでも身じろげば、簡単に軋みをあげる古びたベンチに腰掛けて。
「……」
「どうしたの? おともだちと遊んでいらっしゃい」
「……う」
「え?」
どうやらこの母親と、コウスケと呼ばれる少年はこの公園の新参者らしい。
ここはよく夕方になると、近くの幼稚園に通っているとおぼしき幼児たちが母親に連れられて (実際はその逆であるが)遊んでいる。
だいたいメンバーは決まっているらしく、なんともつまらない光景だと浩介は思った。
「コウスケ君っていうのねぇ。はじめまして!」
母親にうながされても、うんともすんとも言わず砂場の外で立ち尽くす少年。
そんな親子に声をかけたのは、三十代後半から四十代くらいの女だ。
彼女もまた、この公園のメンバーで。一番の年長者らしい。若づくりはしているだろうが、目尻に浮かぶシワがやけに老獪である。
「……」
女の猫なで声にも、少年は唇を噛んで黙り込む。
「す、すいません、この子、人見知りなもんで……」
焦ったような母親の様子も気まずそうな周囲の空気も、浩介には見慣れたものだ。
警戒心に心を閉ざす幼子こそ、本来の人間のあるべき姿なのに。コミュニケーション能力だのなんだのと、己の決まりの悪さのために八つ当たりをする大人のなんと多いこと。
――くだらねぇ。
どうやら妙な空気の中で、子どもたちは遊びを続行。コウスケとよばれた少年と母親は、少し離れた所で細々と遊ぶことになったようで。
「ほんと……くだらない」
浩介が少し大きな声でぼやこうが、彼らは見向きもしなかった。
ただひとり、少年をのぞいて。
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