4.終わり

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4.終わり

「まさか。ずっと待ってるつもりなの?」  女が発したその言葉に、男は視線を逸らした。 (あー、はいはい)  彼女は大仰に肩をすくめる。  目を逸らす時は、肯定なのだ。しかも、本人にかなり都合の悪い方の。   「いくらなんでも、自分を大切にしなさすぎよ」 「……」 「だってそうでしょう? 人殺しの――親を殺して獄中にいる男をずっと待ってるつもりだなんて!」 「うるせぇな」  ようやく聞いた彼の言葉にさえ、ため息がもれる。   「あのねぇ」  彼、には友達がいる。  同じ高校で、クラスは違うが同学年。名前を、鮫島(さめじま)という。  彼女が最初に会った時には『少し変人だな』としか思わなかった。  風変わりで、独特の感性をもつ変人。  はじめてできた友達なんだ、照れくさそうに言う姿に微笑ましさすら感じていたのに。 「その髪色も、そのままなのね」 「……あいつが、そうしろって」  日本人特有の黒髪を、突然目にもまぶしい金髪に染めてきてた時。  彼女は思わず、彼を平手打ちしかけた。理由を聞いて、やっぱり平手打ちしたが。  なぜなら『友達に染めろって言われたから』が理由だったから。 「鮫島は、アンタを別の男の代わりにしてんのよ!?」  それも本人から聞いたものだ。  子どもの頃の大切な友達が金髪だった、と。 「ねぇ、目を覚まして!?」 「……」 「浩介!」 「……」  言葉だって乱暴にになった。まるでヤンキーみたいな。  制服も着崩して、楽しげに小さな公園で友達を待っている彼の姿を見た時。彼女はハッキリとわかった。 「それはもう、友達じゃないわよ」  少なくても、浩介の胸中にあるのは友情ではない。 「……わかってる、よ」 「浩介」  ついに肩を震わせた彼を抱きしめて、彼女は目を伏せた。  親を殺したあの男。鮫島 康介(さめじま こうすけ)は、獄中でも待ちわびているのだろうか。子供の頃の友達を。  夢と現実と幻想の分からなくなった、病んだ精神を抱えて――。 「最悪だわ」  は、いつこの感情から。報われぬ恋から覚めてくれるのだろう。      
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