テレビが来る

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テレビが来る

「そのコンサルタントさ、どう考えても怪しいと思う。経営学の観点から考えても…」 百合子が開くカフェで、良子は事業計画書を見せて感想を言うと、百合子は被せ気味に話してくる。 「大学のお勉強と実際の経営は違うから。まあ、大手企業勤めの安泰の良子からしたら、とんでもない博打に見えるんだろうけど」 良子は言い返す前に、彼女が作ったケーキを食べて、珈琲を飲んだ。味は確かにいい。しかし、店舗型営業というものは、「立地八割、実力二割」という慣用句が存在するほど、立地に左右される商売だ。 「チェーン店カフェの側に店を出しておこぼれ客をねらうなんて戦略は、邪道だよ。うちの企画部門がこんな計画書出したら、左遷モノ」 大手勤めと皮肉を言われたので、つい正論で返してしまう。 「だから、護山さんは独立したんだよ。大手企業はリスクを取りたがらない。目の前に商機があるのに、みすみす取り零してるって」 百合子は護山という経営コンサルタントをとても信用しているようだ。 「じゃあ逆に聞くけどさ、資金体力のある大手が商機を取り零してるとして、それは投入した資金を回収出来る見込みが限りなく少ないからじゃない?長い目で見て本当にリターンが見込めるなら、中小が出来ないような長期投資が出来るのが、大手の強みなのにおかしいよね?」 百合子は、こういう小難しい話が昔から苦手だ。唇を噛んで溜め息をついて吐き捨てる。 「良子の頭でっかち…。全国ネットのドキュメンタリー番組で私の開業までの道が放送されるの!とにかく、TK大卒の才媛の親友が花束を持ってお祝いに駆け付ける絵が欲しいの!」 清々しいほどの単細胞…。詐欺まがいの自称経営コンサルタントがのさばるのは、こういう手っ取り早く目立ちたい、起業の成功者として自慢したい人間がいるからだ。自営業のなんたるかも知らない素人を騙すのは赤子の手を捻るようなもの。良子は、駄々をこねた子供のような百合子を見て、軽く頷いた。 「わかったよ。台本通りにやるから…。もうドキュメンタリーじゃないよね、これ」 百合子はさっきのヒステリーはどこへやら、テレビ業界の中を知った風に語る。 「ただの開業記録じゃ面白くないから、ほんの少し味付けするんだよ。本当は間に合っている料理の仕込みとかもギリギリを装ったり、食材を仕入れる農家さんもすぐ見つかったけど、何件も訪ね歩いたフリするの」 それは味付けではなくではなく、やらせでは?良子はもう何も言うまいと決めて、百合子の店を後にした。
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