蝶々と飴

7/11
前へ
/11ページ
次へ
「蝶々、みたいじゃねえ?」 「え?」 あ。 おんなじ事、考えてた。 「あれ、水飛沫の感じ」 ちょっと道路を指差す。手が大きい。 「そうですね」 この人、そういう感性、あるのか。 雨の始まりのアスファルトの匂いが好きだとか、そういう事。 気恥ずかしくって、今更だれも言わないような、そんな事。 その瞬間、ゴロゴロっと雷の音が響いた。 一瞬、本能的に硬直する。 1,2,3…… パッと光った。 6秒。 ちょっと顔を見上げて、盗み見たら、半笑いだった。 あ。笑ってる。 口元を押さえたと思ったら、こっちを見た。 しまった。目が合った。慌てて目を逸らした。 私こそ、半笑いだった。変な奴だと思われる。 「飴、食べる?」 唐突に聞かれて、彼を見たら、子供っぽい甘いミルク味のキャンディーを手のひらの上に乗せていた。 「あ。いただきます」 包み紙の端っこを摘まんで、いただく。 雷で半笑いだったな、この人。 甘いミルク味が口に溶ける。 私の半笑いが加速する。 ゴロゴロ…… 雷の音が大きくなっている。 1,2,3 あたり一面が光に包まれた。 4秒。 近い。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加