蝶々と飴

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「チッ」 舌打ちの音で我に返った。 しまった。 妄想してた。 残念なイケメンは、無言で隣で雨に向かって舌打ちしていた。 知りもしない下級生に話しかけるような根性の持ち主ではない。 こいつは、思春期真っ只中の自意識過剰気味の少年だった。 無言で雨の音に包まれる。 私のポケットの中のミルク味のキャンディを指で探る。 自意識過剰気味なのは、私も同罪。 いかにも顔だけが良い、目立つ男の子が好きだったら、かっこ悪いと思う。 ろくに話したこともないくせに。 あの女と同じようになりたくない。 気になっていても、恋に落ちる事ができない。 小さな空間に雨に閉じ込められているのに、世間話的な会話すらできないでいる。 意気地なし。 次の雷が、さっきの雷より近くで鳴ったら、キャンディ、あげよう。 まだまだ高く跳ね上がる無数の蝶々を数えるでもなく見つめている。
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