冬の終わりの晴れた日に

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 バイオリンのヴィオは、壊れるために生まれてきました。  えらい人のぜいたくに反対した奏者、レトロモダン気取りの売れないバンドマン。  ある時はスポットライトに照らされた、コンサートホールのまんなかで。  またある時は、おひさまの笑うまちかどで。  色んなパフォーマンスで演奏されては、必ず最後に地面にたたきつけられて、壊されてしまいます。  そのたびに直されては、また壊されます。 「もうこわされるのはごめんだ」  ある日の演奏を終えて、壊れるはずだったヴィオは、けれど初めて頑張りました。  演奏をちょっとも間違えずに歌いきり、そして壊れないようにふんばったのです。  けれども、だれも彼をほめてはくれませんでした。 『なんだよこのバイオリン、ちっとも壊れないじゃないか!』  演奏のあと、舞台のそでに引っこんだ奏者は怒りました。  時代おくれのチョビひげが、怒った肩といっしょになって上下しています。  無理もありません。ヴィオを買ったこの男も、はじめから「壊す演奏で使うもの」としてお金をはらったのです。  その日を最後に、ヴィオは薄くらい倉庫の中に閉じこもってしまいました。  人間に閉じこめられたのではありません。  真夜中に入れ物を飛び出して、抜き足、差し足。  小さな丸い天窓の倉庫を見付けて、自分でお引越ししてしまったのです。
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