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ヴィオは決してさびしくなんてありませんでした。
ここは広いし、夜になると時々、月の妖精たちが遊びに来てくれるのです。
おしゃべり好きのヴィオは、いつも彼女たちとの時間をたのしんでいました。
ある朝、帰りはじめた妖精の一人が、外をのぞいてヴィオにたずねました。
「いつまでここにいるの?」
「いつまでもさ。僕は人間が大嫌いだからね」
短くE線の跳ねるように「クックッ」と笑って、ヴィオが答えました。
精霊は言い返します。
「でも、もう人間なんていないわ」
「そんな訳があるかい。彼らはつよいから、この星の終わりだって見とどけるんだぜ」
「なら、さいごに人間の笑い声や足音を聞いたのはいつ?」
ヴィオは黙ってしまいました。
確かにもう、うんと長い間、人間の声は聞いていません。
ふと、ヴィオは一人のおじいさんを思い出しました。
おじいさんはずっと、壊れたヴィオを直してくれていました。
しわくちゃの手で折れたネックを取りかえ、切れたE線を巻いて、いつもヴィオをかわいがってくれました。
『昔はわしも、趣味で音楽をしとったものだよ。もっとも、決して壊したりなんかはしなかったけれどもね』
そう言って笑うおじいさんのことが、ヴィオは大好きでした。
「もう、ずっと会っちゃいないよ……」
ヴィオはとつぜん悲しくなりました。
けれど彼は不正直でしたから、まったく反対のことを言いました。
きっと、恥ずかしかったのかもしれませんね。
「でも、それが本当だと言うなら、明後日にでもここに楽団が来るだろうさ」
「楽団?」
「ああそうさ、木管楽器に金管楽器、打楽器や弦楽器だって。みんな音楽が好きだから、人間がいなくなったって演奏をするのさ」
ヴィオはとっさにウソをつききました。
ずっと薄くらい倉庫にすんでいたのです。他の楽器たちが何をしているかなんて、彼は知りもしませんでした。
「じゃあじゃあ、私たちも聞きにきていいかな!?」
ヴィオの気も知らないで、一人の妖精が楽しげに笑いました。
こまったことです。妖精があんまりにもキレイに笑うものですから、ヴィオにそれをウソだと言うことは出来ません。
「……ああ、もちろんさ」
結局ヴィオはうなずいて、精霊たちと約束をしてしまったのでした。
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