冬の終わりの晴れた日に

6/11
前へ
/11ページ
次へ
 夜がのぞきはじめた頃。  天窓にうすく積もった白い雪が、すこしずつ冬の空を閉ざしていきました。  また一人ぼっちになってしまったヴィオの耳に、ホールの演奏の音がぐわんぐわんと響きます。  フィディたちは演奏をはじめたようでした。  けれど、息の必要な楽器の声が聞こえません。  ヴィオが倉庫からひっそりと顔をのぞかせると、すぐそこにはフィディがいました。 「こんばんは」  とヴィオは声をかけました。  なんだか浮かないようすです。 「こんばんは」  とフィディが返します。 「人間がだれもこなかったの」 「それはひどい。やっぱり人間なんて残酷なやつらだよ」 「ううん、それは違うよ。きっとお空の上にも楽団があって、かみさまを楽しませるのでいそがしいんだよ」  フィディはひどく落ち込んでいました。  けれども、彼女の弦からこぼれる言葉はとてもきれいでした。  弓の揺らぎも、ピンとうつくしく張られた弦の声も。それだけでまるで一つの楽曲になっているみたいです。  ヴィオはふと、「この子と一緒に演奏がしてみたいな」と思いました。 「だったら、人間じゃないものに手伝ってもらえばいいんじゃないかな?」 「無理よ、イヌはブレスが出来ないし、ネコは詩人だから楽器は弾かないの」  「弾けるのでしょうけれどね」とフィディが笑います。  ヴィオは引き下がりませんでした。   「それなら、僕に考えがあるよ」  自慢のせんさいなE線を「クックッ」と笑わせて、ヴィオは雪のふる外に出ました。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加