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夜がのぞきはじめた頃。
天窓にうすく積もった白い雪が、すこしずつ冬の空を閉ざしていきました。
また一人ぼっちになってしまったヴィオの耳に、ホールの演奏の音がぐわんぐわんと響きます。
フィディたちは演奏をはじめたようでした。
けれど、息の必要な楽器の声が聞こえません。
ヴィオが倉庫からひっそりと顔をのぞかせると、すぐそこにはフィディがいました。
「こんばんは」
とヴィオは声をかけました。
なんだか浮かないようすです。
「こんばんは」
とフィディが返します。
「人間がだれもこなかったの」
「それはひどい。やっぱり人間なんて残酷なやつらだよ」
「ううん、それは違うよ。きっとお空の上にも楽団があって、かみさまを楽しませるのでいそがしいんだよ」
フィディはひどく落ち込んでいました。
けれども、彼女の弦からこぼれる言葉はとてもきれいでした。
弓の揺らぎも、ピンとうつくしく張られた弦の声も。それだけでまるで一つの楽曲になっているみたいです。
ヴィオはふと、「この子と一緒に演奏がしてみたいな」と思いました。
「だったら、人間じゃないものに手伝ってもらえばいいんじゃないかな?」
「無理よ、イヌはブレスが出来ないし、ネコは詩人だから楽器は弾かないの」
「弾けるのでしょうけれどね」とフィディが笑います。
ヴィオは引き下がりませんでした。
「それなら、僕に考えがあるよ」
自慢のせんさいなE線を「クックッ」と笑わせて、ヴィオは雪のふる外に出ました。
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