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僕は城で働くことを許された。
警備の仕事だ。山での仕事には力仕事もあって、父さんのそれを手伝っていたせいか、体力とか腕力とか、そういう分野に僕は恵まれていた。体格も人並み外れてよかった。
「俺、ハネズって言うんだ。」
ペアを組むことになったのは、ハネズという青年だった。人の良さそうな笑みを絶えず口元に浮かべた、小柄な人間だった。
ハネズは世話焼きで、おかげで特段仕事や生活面で困ったことはなかった。また、彼は情報通でもあった。城の様々なことに彼は精通していた。
「国王は今、病気なんだ。おそらく長くはない。」
住み込みである城での生活で、同室でもあったハネズは、寝る支度をしながらそんなことを言っていた。彼はそんな極秘だろう情報さえ入手していた。
「次の国王は彼の息子の王子だろうな。」
彼はぽつりとそう呟いた。その顔には、なんの表情も浮かんではいなかった。
「どんな方なの?」
「さすがにわからない。王子は城から出ることを許されず、周りに顔を見せることさえせずに、大事に大事に守られて育てられる。ある一人の側近しか、姿を見ることは許されない。」
「そうなんだ。」
「...お前、マジで何も知らないのな。」
ハネズは呆れたようにそう言うが、それは仕方のないことだ。山暮らしの僕は町のことさえよく知らない。城のことなんてもっての他だ。
「そんなんで、よく城で働こうなんて思ったな。」
「まぁね。...僕も、アオイのことがなければ城に来ようとは」
「アオイ...って、アオイ様のことか?」
ハネズが急に焦ったように僕に詰め寄ってきた。僕は片手で彼を制し、少し距離をとってから口を開く。
「アオイはアオイだよ。僕の友達。幼い頃、町におりた時に一緒に遊んだんだ。だけど、途中で会えなくなっちゃって。城に入ったって聞いたから、ここに来れば会えると思ったんだけど」
「マジか...それはおそらく、アオイ様で間違いない。アオイ様は幼い頃に城に入り、王子の側で過ごすことになった。そして、今は王子の側近だ。」
「そうなの?」
「あぁ。...そういえば、お前はアオイ様を目にしたことはなかったな。」
ハネズの言葉に、僕の胸は高鳴っていた。アオイが、この城にいる。城で働き始めて一ヶ月程が過ぎていたけど、アオイを目にすることはなかったから、もういないのかと落胆していたのだ。広い城の中で会えずにいただけで、アオイはちゃんとここにいるのだ。
「僕、アオイに会いたくて城に入ったんだ。どうしたら会えるの?」
「...馬鹿言うなよ。簡単に会えるわけないだろ。アオイ様は唯一王子の顔を見ることを許された特別な側近だぜ。」
心底呆れたという表情のハネズの言葉に、大きな軌道を描いて喜んでいた僕の心は急に勢いを失い、まっ逆さまに落ち込んでしまった。
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