散る桜 登る太陽

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桜がひらひらと温かな日を浴びて光を反射しながら舞い散る朝 その中をランドセルを背負い藍色の帽子をしっかり被り 徒歩十五分の小学校へ登校している姿があった 歩くたびに揺れる帽子の下から出ている黄金色が白く輝いている 「おっはよー!テル!俺を置いてくなんてひどい!」 後ろから同じ格好をした少年がガチャガチャと荷物の音を出しながら走ってきた 僅かに額から汗が見える 「おはよう守。集合場所で十分待ったよ僕。家に行ったら守のお母さんから寝坊してるから先に行っていい言われたよ」 スタスタと速度を緩めず規則正しく歩く 発育がよく背筋が伸びているので格好でなんとか小学生らしさを感じることができる 「ひどい!今日はいつもより朝の時間が早いせいだ俺はちゃんといつもの時間なら大丈夫だったんだ!テルだって俺のうちで待ってくれたっていいじゃん!」 照の横に並び見上げながら文句を言う 自分が悪いのはわかっているけど うまくいかない腹立ちが八つ当たりになってぶつけてしまう 日に照らされると茶色く見える黒髪が跳ねている 寝癖が揺れている 頬が赤くなっている走ってきたせいもあるみたいだ 「僕はみんなより早く行って先生と一緒に新入生の下駄箱の名札つけるのと飾り付け手伝わなきゃいけないんだ。それに着いてくるって言ったのは守じゃん」 チラッと横目で守を見るとしっかり頬が膨れて睨んでいた 睨んでいると言うより泣きそうだなって思った この頃の若者は感情の起伏がうまくいかなくて 理不尽でも昂ると我慢できなくなるとテレビで言っていた やれやれと自分も同じ小学生なのに照輝は内心そう思っていた 「そりゃそうだけどさ……。一緒がいいってテルも思ったでしょ?テル真面目っ子だから何でも大人に任させられんじゃん俺がいたほうがそいつらにバリアしてやるんだ!」 バリア!とすれ違った飼い主と散歩をしていた柴犬に守は腕を×の字にし照輝はすみませんと一礼して守の手を引っ張る それによろつきながらも嬉しそうに守は笑った 「僕が手伝うって言ったからいいんだよそれで。嫌なのはちゃんと断ってるからね。大人だって何でもかんでも押し付けたりしないよ」 本当は同世代から年下にで頼られるが口にしたら拗ねちゃうだろうなと考える 守らしく僕を思ってくれた行動なのはわかるし 遊ぶ時間が無くなるのが嫌なのが本音を占めているのもわかっている 「ふーん。面倒なの自分から手伝うって変なの!でもテルがいいやつだからな仕方ないか。俺がバリア!してやるからな!」 守がまたバリア!と言って腕を動かしたけど 僕が片腕を掴んでいるから片腕でバリア!と叫んだ バス停にいたご婦人に笑われすこし恥ずかしかった 「「おはようございます!」」 「はい元気だね。おはようございます」 校門の前にPTAの人が立っていて挨拶した 「おはよう!」 「おはようテル!守!昨日シャイニーヒーローみた?!」 「みたみた!レッドシャインすげぇかっこよかった!そう思うだろテル!」 「うん。守そんなに腕振らないでよ」 「へへ!」 「テルくんと守おはよう」 同じクラスの女の子が挨拶してくる 「おはよう」 「おはよう!」 教室に向かうまで今日登校する五年生と六年生の登校する姿が見える 低学年の生徒は今日は休みで 新入生の新しい一年生が今日はやってくる よく晴れ暖かく桜が満開の今日は この小学校で入学式が行われるのだ 照輝は守と並んで教室に入り同級生に挨拶をした 教科書の入っていないランドセルをロッカーにしまうと そのまま教室のベランダにでて置かれている如雨露を掴み廊下にある水道で水を入れ 教卓にある観賞植物とベランダに植えてある鳳仙花の種が植えてあるプランターに水をあげる 役割決めで決まった人がいるけど サボったり忘れたりする人が多いから 照輝は習慣で水やりをやっている 道具を片付けて戻ると教室にはもう生徒が揃っており 和気藹々と騒いでいる なぜか僕の席で守がランドセルをかぶって踊っている それをみて何人かが笑っていた 「守危ないからそれ脱いで降りなよ」 守るは変な踊りをやめ両手でランドセルを取るとニカっと笑い そのまま照輝の頭に被せる 周囲は大笑いをして女子はやめなよと言いながら笑っている 照輝はだいぶイラッとしたが 無言で頭のランドセルを外し後ろの席に机の上に置いた 「怒った?」 「怒ってないよ。早く退いて」 何が面白いのか笑って守が抱きついきた 自分より小さいけど重いものは重い 「みんなーおはようございます。席についてねー」 教室に担任の先生が入ってきた 「みんな席について」 照輝の呼び声に一同はさっと自分の席に座った 担任の若い男性の小島先生は複雑そうな顔を一瞬したがすぐに戻り 教卓の前に立つ 「みんな入学式に登校ありがとう。六年生の君達はお手伝いと式の参加だからよろしくね」 教室の何人がはーいやはい、うんと返事をする 「六年生は新入生のクラスに行って名札とお花をつけて手を繋いで入場してもらうよ。照輝君はこれから来る新入生の下駄箱に名札付け手伝ってね」 「はい」 照輝は返事をした 「今日は緊張してるかな?六年生児童代表の祝いの言葉の挨拶頑張ってくださいね先生もみんなも応援してますよ」 「はい。頑張ります」 「テルがんばれー!俺掛け声頑張るからな!」 「それはやめてね守くん。今日は静かにお願いします」 頑張ってと他の生徒も声をかけてくれた 別に緊張はしていないけどうんありがとうと返事をした その後朝の時間に日程の確認と僕は先生のお手伝いをこのあとした 春休みの宿題を集めていたけど三分の一は忘れていたらしく 先生はため息を吐いていたが後日持ってくるように言った 後ろの守がほとんどやっていない宿題で背中を突いてきたので教えないと一言言って前を向いた 「じゃあそろそろ時間だから後ろに並んでね。待機室で新入生待っているから自分の正面に並んだ子に入学おめでとうと言ってその花付きの名札をつけてあげてくださいね」 はーいとみんなで返事をした 並んで廊下をみんなで列になって歩く 一番前は今日主役の一人でもある照輝だ 待機室に着くと小さな子たちが騒がしかった 緊張から黙り込んだり親がいないせいか不安そうな子 他のことからかって遊んでいる子もいる 先生の後についてみんなで入室する そうすると静かになった 「みなさんはじめまして。お兄さんお姉さんがみんなを案内するから着いてきてね。体育館にはご両親もいるから安心してね」 小島先生の言葉にみんなは注目して聞いている 小島先生はチラッと照輝をみる それに照輝も視線で返し一歩前に出る 「みなさんはじめまして白瀬照輝と言います。今日は君たちを支えるために僕たちがいます。だからもし不安だったり困ったりしたら近くにいる僕らが大人に頼ってくださいね。今日の入学式をみんなで成功させよう。よろしくね」 周りをゆっくり見回しながらよく通る高いけど男の子の声で優しくだけど強かな声音で話す 新入生たちもぽかんとした様子だったがはいと返事をしてくれた この時にすでにカリスマ性溢れる人物だと 担任は思った 「じゃみんな名札つけてね。つけ終わったら手を繋いでならんでください」 それぞれ対面した子に手持ちの名札をつける その際おめでとうと一声かける 「ご入学おめでとう」 照輝も相手の子に目線を合わせながら言う 相手の子はおどおどとしていて小さい目が大きな可愛らしい男の子だ 「あ、ありがとう」 「うん。名札をつけるね」 ボタン式の名札をつける そして右手を差し出し手を繋ぐ 男の子は緊張した様子だったけど照輝の笑顔を見て覚悟を決めて手を繋いだ 「藤山夏織くんよろしく」 「よ、ろしく白瀬くん」 お互い名前を確認して並んだ 少し名前が似ているななんて少し思った人物が頭を過ぎる 他の子も恙無く終えたようだ それを確認した担任ともう一人の先生が確認して 式場へと向かった 校舎の一階廊下を歩き体育館に向かって歩く 外へ出ると建物から式のアナウンスと音楽が音漏れしている 「ここでみんな待ってね。合図したらここが開いて入場してね一と組ずつゆっくり入るからね。六年生はちゃんと教えてあげてください」 小島先生が声をかけて六年生は返事をする 新入生の子たちは大人しい 藤山くんも緊張しているみたいで手が震えて下を向いている きゅっと手を握る それに反応して藤山くんが顔を上げた 「大丈夫だよ。僕がそばにいるから安心して」 笑顔を向ける ジーと見ていたがゆっくりと頷いてくれた 「…ありがとう白瀬くん」 「照輝でいいよ。夏織くんって呼んでいい?」 「うん。照輝くん」 見つめあって頷くと 丁度体育館からアナウンスが止まり音楽がなった 「そろそろだよみんな。落ち着いてね大丈夫だから」 そばにいた職員が合図を出す そろそろ出番のようだ 「始まったよ。さぁいってらっしゃい」 小島先生に微笑まれ促された 両手扉が開き空気の流れとハッキリと中の様子と音楽が聞こえる 目を合わせて藤山くんの手を優しく引き前に踏み出した 共に後ろから風に運ばれた桜の花びらが僕たちと共に入っていった カメラからフラッシュをたかれる 体育館中央に敷かれた絨毯を二人で歩いて進む 左右から座っている新入生の保護者席と関係者席から拍手が鳴り響く それに驚いた様子の藤山くんだったけど繋いだ手をしっかりと繋ぎ直し口だけの動きで行こうと言った 伝わったのか藤山くんはちゃんと歩いてくれた 入学式用に飾られた体育館はいつもと違い別の場所のようだった 最前列までしっかり歩き二人で振り返って一礼する そうして手を離して互いに左右に分かれ近い席から座る席順だ 僕は中央左の六年生の席列で 右側に座る 藤山くんたち新入生は僕の反対になっている 手を離してもこちらを見上げた後ちゃんと自分の席に座ってくれた あとは他の生徒も順番通りに進行していった 生徒が全員席に座った そうすると音楽と拍手が鳴り止んだ 一瞬でしんとなり静かな空間が出来上がった 「国歌斉唱。一同、起立」 一斉に立ち上がる そして国歌を歌った 幼い小学生だけではなく約半数は大人なのでいつもと違う歌に感じた 「一同、着席」 一斉に着席する 揃えることに意味があるのよ といつしかおばあちゃんが言っていたなと思った たしかにものや動きが揃うのは気持ちが良く美しいと思う でも不規則に散る桜の中で静かに涙を流す光景は きっと一生忘れない美しい光景だったなと思った いけない思い出しているうちに校長挨拶も終わっていた 厳かな空気の中で行われる行事に 不思議と一体感まで感じる こんな時も最近はあの人のことを考えてしまう 今何をしているのか あの家で寂しくはないのかな そう思うと胸が苦しくなり手を強く握りしめた 早く終わらないかな そんならしくないことまで考える 「それではPTA会長白瀬花枝様からのご挨拶の言葉です」 司会進行をする先生がおばあちゃんの名前を読み上げた 後ろの方から椅子から立ち上がった音がした 僕が座っている式場の建物左側通路を静かに丁寧な所作で歩くおばあちゃんの横顔と後ろ姿が見えた 僕のおばあちゃんはPTA会長だった 家のこととお店で忙しい中学校の行事に参加し他の父兄と意思疎通を図っているらしい それがそばに居ない両親の代わりにしてくれていると知っているので僕は少し申し訳なく思う 大好きなおばあちゃんが見えて嬉しくなる 今日は色留袖の着物を着ていて華やかで上品だった 髪も綺麗に結ってある 薄い桜色の艶のある桜の簪が綺麗だった 祖母は壇上にゆっくりあがり 演台の前に立って式場を一瞥して一礼した 「御紹介に与りました現PTA会長白瀬花枝と申します。この度ご入学の皆さんと保護者の方々まずはご入学おめでとうございます。今日の良き日に皆様とご挨拶できまして嬉しく思います。ご入学なされる皆さんを見ると桜咲く頃真新しい制服と鞄を背負って学校へ通う孫の事を昨日のことのように思い出します。保護者の方々もお子さん同様不安と希望に満ち溢れ今日が素晴らしい門出になることを切に願います。皆様と一員になってよりよい学校生活が過ごせますようPTA一同一丸となって努める所存でございます。どうか皆様も新しい一員となって共に見守れますよう願っております。これにてご挨拶を終わらせて頂きます。PTA会長 白瀬花枝でした」 丁寧に腰をしっかり曲げ頭を下げて一礼した 会場全体から拍手が鳴り響く おばあちゃんの凛々しい姿に感動した 去り際にチラッと目があった そして来賓紹介に続き祝電披露が行われた その後新入生の学級担任の紹介がされた 先程見た先生たちが壇上で一人ずつ呼ばれて一礼する 三人目でマイクの調子が悪くなる以外は問題なく進んだようだった 「続きまして、六年生からの祝いの言葉の挨拶です。六年生代表 白瀬照輝君」 「はい!」 大きく返事をして席を立つ 一歩前に歩き直角に曲がって前進する また右に直角に曲がって正面の壇上にあがる 堂々と綺麗な金色の短めの髪を揺らし先程おばあちゃんが立っていた演台の前に立つ マイクはさっき交換されて高さが調節されていたみたいだった 会場を見る 視線が高くなり自然と全体が見える 視線が自分に集中するのがわかる 原稿用紙は置いてきた 暗記は得意でちゃんと記憶したし昨日も遅くまで練習した 大丈夫。緊張はしていない こういった機会に僕はあまり緊張はしない おばあちゃんがいっていた 積み重ねが自信になるってそれは裏切らない その通りだと思う だから大丈夫 真っ直ぐに前に顔を向ける 会場に席が設けられた来賓席の奥にある関係者席におばあちゃんが見える 座っていても背を曲げないで綺麗な座り方だと思う んん? その隣の席に若い人がいる もちろんこの会場に若い職員や保護者席にも親族の方がいるのはわかる だけど関係者席に黒い学生服の人物がいるのは違和感がある あまりに若いし それは自分が最近知り合い とても気になっている人だったのだ そこにはなぜか笑顔でこちらを見ている 真田馨くん本人がいた 照輝はあまりの衝撃に 一瞬呆け自分の現状を忘れてしまった 目があって馨くんは優しく微笑んでくれた え?ど、どうして馨くんがいるの? ここ小学校だよ? パニックになっているが表面に出さず硬直する その反応に馨くんは首を傾げる そうして前隣のおばあちゃんに声をかけている様子が見える おばあちゃんの鋭い視線に意識を取り戻して 僕は正気に戻る さっきはなんともなかったのに 心臓がバクバクとする なんでいるの?もうなんで? 嬉しいと驚きと恥ずかしさが混濁したが なんとか調子を整え一息吐く 「新入生の皆様。桜満ちる今日に良き晴れ舞台である入学式を行えましたこと誠におめでとうございます。ご家族皆様も大変お慶びの事と思います。これからの学校生活を僕たちと共に学び遊び健やかに成長できますよう学舎の一員として願っております。不安なことも楽しいことも友達や先輩、先生方やご家族様たちと分け合ってください。常に誰かがそばにいることを忘れないでくださいね。改めまして新入生の皆様とご家族様方にお祝いの言葉を送らせて頂きました。おめでとうございます 白瀬照輝」 一歩下がり九十度に頭を下げて礼をする 失敗はしてないよね 思わぬ出来事に白紙になったけどリカバリーはなんとかできた 会場全体から拍手が鳴る その中をしっかりとした足でゆっくりと席に戻る 階段を降りる時 おばあちゃんと馨くんが見えて言いようのないムカつきと嬉しさと気恥ずかしさが溢れたけど 表情を変えないように意識して席に戻る 出番は終わったのに むしろ後ろ斜めの奥の席にいる身内と思わぬ人に 内心大騒ぎだった照輝だった 《馨side》 周りがざわついている 大きなカメラを首に下げた父親らしき人と奥さんらしき人が撮影場所の打ち合わせをしていて本格的な内容で少し驚く ストーリー性が大事らしい そこから少し離れたところには既に半泣きの女性とそれを宥めながらも半泣きの男性がいた とりあえず予備のティッシュを手渡しなぜか一緒に写真を撮った 自分の黒い長めの髪が風にあおられ揺れる 何故か自分まで緊張してきた 襟を正し制服の皺を軽く伸ばした 昨日一応シャツにアイロンがけをした 数年ぶりに俺は母校である小学校に来た 桜の木がたくさん植えられていて見事に満開だった 懐かしさを感じてしまうくらいには 数時間前の日曜日の朝 「おはようございまーす」 つい間延びした挨拶をした 土曜日にたまたま家の前で花枝さんと会った 軽い挨拶をして家に戻ろうとしたら家にお呼ばれして 雑談をした 照輝くんはその時いなくて 聞いてみると小学校の入学時期が明日でその準備の手伝いに行っていると言う 休日に大変だなぁと人ごとに思っていた爆弾を投げられた 「そうよ!馨さんも明日いらっしゃい」 「え?どこにですか?」 「照輝の学校の入学式によ」 「えっと、なぜ俺が?無関係で迷惑になりませんかそれ」 いくら母校といっても入学式に参加されても困るだろう不審者扱いだったら困るなぁ あの小学校に通っていた弟はもういないから 本当に無関係だ 「もううちの子みたいなものでしょ?あの子頑張って六年生の代表でお祝いの言葉話すから見てあげて欲しいわ」 「あの、それは嬉しいですけど。照輝くんが代表で喋るんですか?それはすごいですね!」 それは是非見てみたい! きっと照輝くんなら立派な姿を見れそうだ 「そうね張り切っていたわ。私もPTA会長として挨拶もしなきゃなんですけどね」 「それもすごい。じゃあ二人の晴れ舞台でもありますね。確かに興味あります」 「あらやだ煽てても何も出ませんよ」 そう言って花枝さんはどら焼きを増やしてくれた 桜の塩漬けが入った餡で香りが良くて美味しい 「でも大丈夫ですかね俺」 「大丈夫よ。関係者席に席用意してもらいますし、何よりテルも喜ぶわよ」 「そ、それならまぁ、じゃあ行きます」 「良かったわ!照輝は朝早出だから九時ごろうちに来なさいね。ご飯用意しときますから食べて行きなさい」 「そんなまたご馳走になるなんて」 毎回毎回食って寝て食って寝てだ ダメ人間になってしまう 「私がいいって言ってるんですよ。老人の楽しみを取らないでくださいね」 「は、はぁ。わかりしたご馳走になります」 花枝さんは嬉しそうに笑ってお茶を飲んだ それを見て俺も茶柱が立っていたお茶をゆっくりと飲んだ そのあとは夜ご飯もと言われたけどさすがに居座りすぎだと思い片付けがあると言って帰った 照輝くんに会えなかったのは残念だったけど 急にイベントが明日にできたので楽しみだ 楽しんでいいのか? ふっとわいた黒い感情を振り払って明日のことを考える 制服でいいんだよな 照輝くんには内緒だそうで それはそれで反応が楽しみ 郵便物を片付けながら考える 先週会ったばかりなのに日常に溶け込み 優しく温かく接してくれたあの人たちに 感謝してもしきれない思いだ 孤独は人を殺す 改めて思う 一人ぼっちには大きすぎる思い出が詰まったこの家は 今の俺には暗く重すぎる場所だ 逃げ場所にしてはダメなのに つい思い馳せてしまう 隣の優しい場所に シャワーを浴びる 熱いお湯が体に当たり流れる そこからじわじわと刺激と熱さが 気分と思考ごと流された気がした 薄暗い浴室に湯気がこもる 曇った鏡を見つめる 片手で拭い映った自分を見る ひどい顔だな 久しく切ってない髪がお湯を吸い込み流され 顔を覆う そこから覗く目は虚だった 冷蔵庫からペットボトルを取り出し氷の入ったグラスに注ぐ しゅわしゅわと音を出しながら中身が満たされる 気泡が弾け氷がゆっくり周り音を鳴らす それを持ってリビングのソファに座る フワッとカーテンが揺れて外から柔らかい少し冷えた風が入ってきた それが肌に触れ熱った体に気持ちがいい ポツッと前髪から拭ききれなかった水が一雫落ち手の甲を濡らした グラスを置き首にかけていたタオルで髪を拭く ふぅ … 静かな部屋に微かに聞こえるカーテンの揺れる布の音 外から遊んだ帰りなのか子供達の声 世間話した女性たちの声もした 夕暮れの時間でデッキがオレンジに染まってた 陽が遮られた家の中は薄暗く青白かった グラスに入ったサイダーを一口飲み刺激ととも喉を流れた ガラス窓に近づきカーテンを手で避け外を見る 僅かに草の匂いと外の複雑な匂いがする ふぅと息を吐く すこし呼吸がしやすくなった 庭に二台の自転車がある 俺の自転車と補助輪がついた弟のだ まだ一人ではうまく乗れなくて週末には学校から離れた空き地で練習を手伝ったな 黄緑色と青の自転車 弟のは青で少し大きい 成長してからも使えるようにと買ったのだけれど やはり大きくて弟は拗ねていた カランッ グラスの中の氷が崩れた 冷たさは感じなかった ぱっと明かりが目に入った なんだろう? 上を向くと正体がわかった ちょうどここからの上は隣の人の二階が少し窺える そこの住人が明かりを灯したみたいだ 照輝くんの部屋だ 今帰ってきたのかな 六時を過ぎてるのに 部屋の窓に隣接された机に何か置いたのか少しだけ照輝くんが見えた あの綺麗な少し白く見える黄金色の頭が見え 心がざわつく それだけでなんでだろう 地に足がついたような不思議な感覚がした 照輝くんはこちらに気づかないようで 鞄から何かを取り出して机に置いているみたいだ ふわふわと動く髪が可愛いらしい 手触りがいいのは知っている 柔らかくて滑らかでサラサラとしている また触りたいな なんて思ってしまった 変態臭かったかな? グラスを傾け喉を鳴らして飲む 少しだけ氷で薄まった味だけど さっきより美味しく感じられた 照輝くんはそのまま見えなくなって部屋の明かりは消えた そのあと部屋に戻り窓を閉めた キッチンに戻りグラスを片付け 昼間買ってきていたお弁当を温めた 美味しかったけど隣で食べたご飯は お腹だけじゃなく心も満たされたんだなと 改めて思った 一週間ぶりに制服に着替えた 鏡の前で軽く髪を整えて身だしなみをチェックして 家を出た そしてすぐ隣へ 向かうとガラス戸に花枝さんが見えた こちらに気付いたようで一礼した こちらに近づいて扉を開けて 微笑んでくれた 「おはようございます馨さんいい天気ねぇ」 「はい。快晴で良かったですね」 「テルはもう学校に行ってますから中でご飯だべてなさいね。その間に着替えますから」 「分かりました。何かお手伝いできることあったら言ってくださいね」 「あらお着物の着付けできるのかしら?」 「……できないです」 「ふふそうよね。今度教えてあげるわ。ささ入ってちょうだい」 「お邪魔します」 居間の食卓に置かれた和食をご馳走になる 「いただきます」 鮭の香味味噌焼きに白和え、新玉とつみれの煮物と麩の味噌汁だ 美味しくいただきました 「ご馳走様でした」 まだ花枝さんは自室から出てこないので 台所をお借りして洗い物をした 食器もうちと違って詳しくはないけど高そうな焼き物なのはわかる 丁寧に拭いて重ねておいた 居間に戻り冷めたお茶を飲む 縁側から見える庭は水やりした後がわかり 照輝くんがちゃんと朝早くに仕事をしたのがわかった またキラキラと煌めく髪を揺らしながら水を撒く姿をまたいなと思った 教えてもらったユキヤナギが白く光を反射して風に揺れている 本当に居心地が良く 眠くなってくる 「お待たせしたわね」 「あ、ご飯ご馳走様です!美味しかったです」 「それなら良かったわ。洗い物どうもね」 「いえ台所をお借りしました。その着物、綺麗ですね」 花枝さんが羽織っていたのは水色の生地に白い桜の花が描かれて扇の模様があった 派手すぎなく品がありとっても艶のある白い髪に似合っている 髪が結ってあり薄い桜色の簪がさしてあった 「そうありがとう。おろしたてなのよ派手なのと教室用にあるけど、派手すぎるのはダメだしかと言って地味すぎるのもダメだから迷ったのよね」 「着物選びも大変なんですね。俺なんか学生服ですから気楽なものですよ」 「楽なのが一番よね。でも場に沿った服っていうのも大事な要素で場を華やかにしたり引き締めたりできるものよ。学生服も服装を統一させて学生であることを意識し自戒させる意味もあるのよ」 「服装って大変ですね。私服登校がある学校もありますけど毎日服選びに悩んで大変だなって思いました」 「そうね。制服の場合そっちの方が大変ね。意外とみんな面倒だから着回しよね」 「そうだと思います」 なんてない会話をしていると 花枝さんが時計を見て動いた 「あらこんなに時間たっていたのね。準備はできまして?」 「俺は制服とハンカチティッシュくらいですから」 「それじゃ出発しましょう」 「はい!」 花枝さんは家の鍵を閉めて共に小学校に向かった 駅から歩いてきたのか正装の格好の夫婦が荷物を抱えて先を歩いて行く 日が暖かくどこからか桜の花びらが一枚目の前に舞っていた そして会場に入れるまで外に待機することになった 花枝さんは先に職員に案内され打ち合わせに向かった 俺は時間が余ったのでぶらぶらと不審者にならない程度に周囲を巡る 少し離れた校庭の隅に鉄棒がある 逆上がりが苦手で何回も放課後練習をさせられ 帰りは悔しさに泣いた時もあった 今見てみるとすごく小さく感じる 隣の離れたところには飼育小屋があってウサギがいる 俺はそこが好きで係でもないのによく言っていた 体育館裏近くの畑にはまだ植えられていないので土肌のままだった 地味な立ち位置だった俺は誰もしたがらなかった水やり係にいつのまにかなっていて朝と放課後 そして決まった休みの日に水やりに行っていた 最初は押し付けられたなーと思っていたけど静かなで コツコツやる作業は性に合っていたらしく日々少しずつだが変化がある植物の水やりが楽しかった もう一人の係は初日以降来なかったけど 少し集団から離れた桜の木の下に寄り 木の根に座る 汚れを確認して座ったから多分汚れてはいないはず 離れた先で知らない人たちがそれぞれ知り合いなのかわからないが挨拶して談笑していたり カメラの充電が残り少ないと憤慨してる女性に謝る男性 と様々な人たちがいた 喧騒から離れていると落ち着くような寂しいような 元からここにいるべき人間じゃないけどさ 照輝くんはここの三階の教室にいるかな 六年生だからあそこらへんの教室のはずだ 見ようとしてもここからでは見えない こんな時あの子の姿が見たかった 風が吹いて地面に散った桜が舞い上がった 見えなくて地面を見て下げていた顔をあげた そしたらドアップで顔があった 「うわぁあ!」 「んぬぁあ!」 互いに声を出して驚く 「あーちょーびっくりしたわ!まじで!タイミング良すぎじゃね?」 尻餅をついた彼がスタッと起き上がりお尻をパンパンと叩いて土を払う 「だ、大丈夫か?」 「大丈夫大丈夫もーまんたい!かおるっちも平気な感じ?」 「あーうん平気。ってなんで名前知ってるの?」 その言葉に顔を驚きの表情にした後わざとらしいほど悲しそうな顔をした 「ひどい!俺とかおるっちの仲なのに!!遊びだったのね!」 くねくねと動き鳴き真似をする 既にうざい けど誰だ? でもかおるっちなんて呼び方をするのは…一人だけだ 「あれ、きーくん?」 「うい!大正解!」 小学校からの幼馴染で中学一年の時一緒のクラスだった東喜一だった 陽気で明るい彼はクラスのある意味ムードメーカーのお馬鹿で 特定の友達というよりは各グループに時々混ざりふざける奴だった 地味な俺とも周りよりはよく絡んだ仲だ 初対面でかおるっちと呼ばれて一週間後には俺もきーくんと呼んだ 意外と気遣いができ周りをよく見ていて ある日俺と一緒じゃつまらなくない?なんて恥ずかしいことを聞いた時 彼はちらっと見た後好きでいるだけだからいーの! かおるっちは癒しキャラだから! なんて言われた 中学二年になりクラスは離れたがたまに遊んだり家でゲームすることもあった うちの家族に馴染みすぎて俺がいないのに飯を食っていたこともある 「なんでこんなところにいるの?」 「こっちのセリフだぜ坊や」 「え?ナチュラルにうざい」 「たはー!厳しい好き」 ギュッと抱きしめられた いつものことだが俺よりでかいくせに乗っかってくるのでうざい 「はいはいステイステイ」 「ワン!」 「ノリが良すぎるのも問題だな」 「ノリノリ有明のり!」 「うぜぇ」 「ごめんさい」 ちょっと圧をかけてあげないと止まらないんだこやつは でも普段よりウザいからきっと喜んでくれているのはわかる いい奴なのは間違い無いんだけどね 「で、なんでここにいるの?」 「んー?俺今日撮影係!とっちゃうぜーとるぜー!」 こちらにカメラを向けてきたのでとりあえず引っ叩いた 喜んでくれたみたいだ 「親がPTA役員?だからさ実家カメラ屋だし俺一日中超寝る予定だったのにぶん殴られたから仕方なーく来てやったんだぜぃ!」 「そうなんだ。弟ここだったんだな」 「そうそう可愛い弟の姿もばっちしとってやんよ!」 ガッツポーズをしている 「またウザすぎで泣かれないようにね」 「俺の愛に溺れちまいな」 ドヤ顔で顎をくいってされながら言われた 「誰目線だこら!」 頭を掴みシャッフルする 少しでもネジが閉まりますように 元からなかったら残念 「ぐへぇええかおるっちの愛が激しいでも悪くないおかわり!」 「ご利用は一回までですこれ以上は月額一万円です」 「ええ!俺ジュース変えるぐらいしかもってねぇー!」 「はい残念でしたね。またのお越しを」 てか手持ち少なすぎないか? 「てかかおるっちは?」 ……… 「知り合いの子が出るって誘われたんだ。その子が入学式の挨拶に出るから見にきたんだよ」 「へぇ」 ……… 少し無言の時が流れた 「なんかあれだなーあれ」 「あれ?」 動かないで遠くにある桜の木を東は見ていた その横顔は珍しく真顔で 意外と整った顔をしているだと思った そしてこちらをみて優しい顔で言った 「かおるっち思ったより元気そうでよかった。俺ちょー嬉しいぜ!」 ニコって音が出そうな笑みだった 誰だこのイケメンは はっ、きっと幻だ 正気に戻らないとな くそ東に心配されているなんて 知っている 事故があった日から毎日うちに来ていたことを 最初は無視をしていたのにうちに来てピンポンピンポンうるさいしスマホもくだらないことをバンバン送ってきた でも東なりの優しさと気遣いだったのはわかっていた 葬式前に呼び出す前に来ていた東に謝った でも本人は何が?って顔をしてうちに来てゲームして飯食って帰っていった そんないい奴なんだ 「あー、うん。ありがとうきーくん」 照れ臭くなる 「おう!」 こんな時は静かなんだなこいつ なんだか悔しくなる 「お待たせしちゃったわね。あらお友達?」 花枝さんが戻ってきたようだ さっきいた場所から離れていたから探しにきてくれたのかもしれない 「すみません探しましたよね」 「ちょーマブダチっす!!」 「そうなの?それはとってもいい事ね。私白瀬花枝と申します。初めまして」 丁寧に挨拶する花枝さん 高一相手にそんな畏まらなくてもと思うけど白瀬家らしいなとは思った 「初めまして!俺東喜一っていいます!好きに呼んじゃってくださいね!」 花枝さんと握手をしている どちらもニコニコとしている なんだろうこの異種混合戦みたいな状況は まぁいいか 平和だし なんだか少しばかり離れている君に会いたくなったのは 内緒の話 会場は垂れ幕や絨毯が敷かれており式場として出来上がっていた 何人か知っている顔の先生がいて東と共に挨拶をした 「てかなんでついてきるの?席あるんじゃない」 「あるよーもち。でも撮影係だしー好きにしてもいいじゃん?かおるっちもいるだし離れたくねーよー」 後半はわざとらしい声で抱きついてきたが避けた 「ふふ仲がいいのね。馨さんと私は横の関係者席に椅子を設けていただきましたからそこに座りますよ。東さんもいかが?」 「マジっすか!それちょーナイスですね!嬉しいぜ!」 後ろから抱きつかれたがもうすでに疲れた 腕をつねって解放を促す DVと騒がれたが無視だ そして前から花枝さん、俺、きーくんと席順になった 確かにここからならよく見えそうだ 会の進行順を、パンフレットを見せてもらって確認したが 大体十時半に花枝さんの挨拶の後来賓など挟み 六年生代表の照輝くんの挨拶が始まる すごく楽しみだそしてなぜか緊張する 家族などの関係者や来賓の方々も集まり着席した もうすぐ開始だ 東がずっと話しかけてくるのでふとももをつねっておいた 「それではこれより、入学式を始めます。ご入場の皆様どうか新入生が入場して参りますので拍手とともにお迎えください」 音楽が鳴った 体育館後方の大きな両手扉が開き光と桜の花が混じった風が入ってきた そして小さな子と大きな金色の髪の男の子の姿が見えた 周りの人も驚いた様子だったが拍手がより大きくなった 俺もつい前のめりになって窺う 隣の東はいつのまにかいなくなって 入り口のところで撮影しているようだ チャラついているようで根が真面目なのは変わってないみたいだなぁ そう思っていると中央の絨毯を踏みしめながら 堂々と歩く二人 少し遅れ気味な新入生の子を足の速度を合わせ 手を繋いで転ばないようにしているのがわかった さすが照輝くん安心感がある まっすぐ向きながらも小さな子を見つつ歩き座る席のとこまで歩ききり振り返って一礼し 各自別れ自分の席についた まるでランウェイを歩いている勇ましい姿だった ここから照輝くんの後頭部が見えるが次第に生徒が増えるたびに見えづらくなっていった 「ひゃー疲れた。往復つらたんってかんじね」 額の汗を拭って東が後ろ隣に座った 「お疲れ様。交代したの?」 「次の子供たちの時までね。あーちょー走った」 確かにうろちょろとでかい体が往復して目立っていた 父兄よりも素早く動きスポーツ大会かよって思った 「見る?」 「うん見して」 デジタルカメラの液晶画面には先ほど撮った写真が写っている 光を背景に桜の花びらと共に入場した照輝くんと男の子が写った写真がうまく撮れている 「うわぁキーくん上手いな撮るの。さすが二代目。照輝くんかっこいいなぁ」 「でっしょ?俺いけてるっしょ?誰それ?」 「ほらこの子」 「ほーこやつね一番最初の目立つ子。確かにオーラ?みてぇーなのあったわー撮りがいあった。このライオン丸見にきたの?」 「なにそのライオン丸って……。そうだけど」 「髪の毛綺麗でライオンの鬣っぽくね?それとかっこよさも合わせて丸つけた」 「センスないなほんと」 確かにライオンっぽい感じはする 黄金色の鬣のライオン かっこよすぎだな 「てきびしーっス先輩!」 「ほら静かにねステイステイ」 「わん!」 「ふふ」 花枝さんに笑われたじゃ無いかアホ犬 式が進行して花枝さんの番になった 小声で応援する 「頑張ってください」 「いってきますね」 「「いってらっしゃい」」 俺も東の小声で少しばかり大きく何人かがこちらに振り返った ちょい恥ずかしい 皆から注目されたが立ち振る舞いが堂々としてて 着物を着こなした花枝さんは綺麗でかっこよかった ゆっくりと丁寧に言葉を紡ぎ挨拶を述べた そして深く一礼しゆっくりと戻ってきた 「「おかえりなさい」」 「はい、ただいまです」 その後も粛々と式は行われた 目の前の五年生の列の子は眠そうだが頑張って起きているようだ 確かに適温で日が暖かい今日は眠たくなるね がんばれ少年 「続きまして、六年生からの祝いの言葉の挨拶です。六年生代表 白瀬照輝君」 司会が次を知らせる ついに照輝くんの出番だ 「じゃちょっくら行ってくるかなー」 「ねぇ待って」 「んにゃ?」 変な声を出すな 俺は東にこそこそと耳打ち話をした 東は親指を立てキメ顔をして去っていった
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