散る桜 登る太陽

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木漏れ日が斑模様に地面に描く 赤い郵便ポスト周りに桜の散った花びらが広がっていた 古めかしい建物の中から賑わった声が響く 「「ジャーンケーン、ぽん!あいこでしょ!しょ!しょ!しょ!しょ!っしょ!っしょ!っしょ!しょ!!」」 「そこの兄弟たち、他のお客さんがいないからって騒ぎ過ぎだよ。あと何回あいこしてるの」 えーと、…………四十回?ぐらい 指折り数えていたが途中で諦めたのかにひひと謎の笑みを浮かべ兄の方が言った 「兄ちゃんしつこすぎ!真似すんなよ!」 「はぁ!?真似なんかしてません~!弟のくせにな~まいきだーー!」 変に言葉を伸ばして弟の頬をムニッと伸ばして遊んでいる 「いひゃい!ひゃめろほ!」 顔を赤くして抵抗している弟はポカポカと殴ったり蹴ったりしているがダメージはないらしい ヘラヘラしながらいじめている 「やめい」 頭にチョップする いたい!何すんの!馬鹿になったらどーしてくれんの?! とふざけた事を言っているが無視をする もう時既に遅しだろ 「弟をいちいちいじめるなきーくん!いーからさっさとお菓子決めなよ。照輝くんを見習って高校生!」 嫌味を込めていう その照輝くんは俺の隣で黙々と棚にある駄菓子を裏の食品表示を熟読している 「だってぇ俺悪くねぇーっスよ旦那ぁ~。この無限に伸びる!レインボーグミ!が気になっちゃうんスよ~。これ二個あれば無限二倍ってヤバくね!無限だけでヤバいのにそれが二倍ってちょー無限じゃん月まで伸びるんじゃね」 ウッヒョーー!となぜか体を伸ばしてその伸びを表現している喜一だった 「兄ちゃんの馬鹿!無限は一個でも無限なんだよ!」 弟の守がそう言った 一個でも二個でも無限は無限だし、数の問題でもない そもそもそんなに伸びるなんて、と言うのは大人気ないので口にしない 振り返ると照輝くんは静かに淡々と予算以内に目当てのものを吟味して小さなプラスチックのカゴに入れている あぁこの温度差 「ばぁーーか!一個でも無限から二個あった方がいいだろ!それより俺のお小遣いだから俺が決めるの!兄ちゃんは自分で買えよな!」 プンスカと怒って勝手に入れられた無限に伸びる!レインボーグミ!を乱暴に元の場所に戻した そして隣の恐竜チョコ!シークレットもあるよ!のお菓子をカゴに入れた それでかいくせに美味しくないと俺の弟は中のおもちゃだけ取り出して俺にそのチョコだけ寄越した 仕方なく食べたがたしかに微妙だった それ二つも買ったら予算それで使い切るよ と思ったがこれも教育だと思い何も言わない くいくいっと服の裾を軽く引っ張られた 顔をそっちに向けた 照輝くんが俺を見上げていた 丸い大きな青い瞳が俺を映している 「僕はお菓子が決まりました。馨くんはまだ決まらないんですか?」 騒ぐ二人を諌めてて自分の分はまだ決めていなかった 「そうだね。今選ぶよ」 商品棚に体を向けて商品を見てみる 付き合いで買いに来るくらいで あまり自ら行って買って食べたいと思わないが いざ来ると色々と物を見てみたくなる 特に代わり映えはしないけど とりあえず目についた某スターなラーメンとガム、ラムネとチョコバーを選ぶ それを隣で照輝くんはじっと見つめている 何だか気まずい 熟孝していた つい感覚で選んだけどダメ出しされたりなんて… 「馨さん」 「は、はい!」 ちょうど考えていたときに声をかけられ吃った 不思議そうな顔をしたが構わず言った 「そのラーメン菓子なら同じメーカーで小分けじゃなく容量増しの袋がありますよ。そのチョコバーもお得用よりこちらの方が僅かに合成甘味料が少ないです。着色料も使われてないから少し値段と量が気になりますけどこっちの方が外で食べる分ならこのぐらいでいいと思いますよ」 照輝くんはまるでプレゼンするようにつらつらとノンブレスで告げた 確かに見てみるとその通りだった 「その通りだね。ラーメンはみんなもいるしそれがいいかな。チョコバーもこっちの方が多いし気兼ねなく食べれるから、せっかくだけどこっちのままでいいかな?」 「はい。もちろん馨くんが好きな方を選んでください。折角ですし食べ比べにこっちのチョコバーも買ってみます」 そう言って俺が持っていチョコバーを受け取り自分のカゴにいれた あんなに金額とTPOに沿って熟慮していたのに 俺と食べ比べするものは即決なんだと思い 照輝くんの優しさに触れて温かい気持ちになる 「おー俺もこれ好き!うめぇよなぁ!」 喜一がいつのまにか横にいて俺のカゴの中身を物色していた その手にはラーメン菓子とチョコバーを握っていた 「勝手に物色しないでよ」 持っていたものを取り返してカゴに戻す そしたらカゴの中に見知らぬものが二つ 無限に伸びる!レインボーグミが入っていた 俺は黙って元にあった場所に戻した 「えー!何で戻すんだよー!かおるっちのケチ!チワワ!」 わざとらしく拗ねたように言われた そりゃそうするだろ てかチワワってどこから来たんだよしりとりか? 「自分の分は自分で買ってくださいねー。ほら守だって自分で選んでお小遣いの予算以内に買ってるんだから文句言わない」 ケツを叩いて追いやった いやんエッチとか言ってくねくねして逃げていった ムカつくなこいつ… 黙っていた隣の照輝くんは冷たい眼差しで喜一を見ていたがフンと視線を外した まだ揶揄われた事を根に持っているのかな 当然だよなウザいもんなと一人納得する 俺の視線に気付き元の綺麗で優しい瞳の照輝くんに戻った 良かった 照輝くんは378円分のお菓子をかった 食べ比べ用のチョコが税込み378円でその分オーバーしたみたいだ 少し申し訳なく思う しっかり者の照輝くんだからお金関係もちゃんと管理してそう 駄菓子屋でぐらいなら買ってあげてもいいのに でもそんなことしたら花枝さんの性格なら自分の分は自分で用意しなさいとか言いそうだ そもそも照輝くんならお金を出そうとしても遠慮されるだろうなきっと 駄菓子屋のおばあちゃんにお礼を言って背負ったリュックにしまっている 「あー!いいな兄ちゃんずるいー!それ絶対五百円超えるでしょお母さんに言っちゃうから!」 「これが大人の余裕ってやつだよ守!悔しかったら早く大人になるんだな!」 得意げな顔をして大人げなくカゴ一杯にお菓子を詰め込んでいる 余裕がある大人のすることではないしそもそもお金を返さずお菓子を買わない それを横目に会計を終えた 照輝くんの厚意に甘え同じリュックにお菓子を入れさせてもらった 騒いでいる二人を急かし会計させる 照輝くんも守を宥めて世話を焼いている 中身小学生のでかい子供が増えて大変だ より照輝くんの大人びた姿勢に助けられる 「よっし準備できたなー!行こうぜー!」 レッツゴーといって前を兄弟が進む なんだかんだ似た者同士で仲がいいな 外に出るとフワッと冷たい風が肌を撫でる 買い物を終えた俺たちはそこから二十分ほど歩いた アスファルトから生えたタンポポが濃い黄色の花を日に照らされながら風にゆらゆら揺れている ギザギザとした葉が特徴的で可愛らしい 歩いているの大きいゴールデンレトリバーの犬が尻尾を振って散歩をしており みんなで触らせてもらった 手触りが照輝くんと似ててつい笑ってしまい怪訝な顔で見られたがなんとか誤魔化して飼い主さんと犬にお別れした 守がテンションが上がって大型犬について兄の喜一と照輝くんに頬を赤くしてすごく大きくて可愛かったな!と言っている 最初は怖がっていたが友達と兄の手前俺の後ろにくっついていたが、俺が触って大丈夫だよと教えるとおずおずと触り平気だとわかると全身で抱きついていた やっぱり子供はかわいいなと思った 隣にいた照輝くんは何故か大人しかったけど犬はそんなに好きじゃないのかあまり反応しなかった 猫はだったりして 喜一は一人でやっべぇ!と連呼していてうるさかった ほどほどに騒ぎながら先に進む 久しぶりに子供だけで出掛けている 照輝くんの小学校の出来事から 互いに知り合い同士なら是非遊ぼうと言うことになり きーくんこと喜一が提案した そして今広い面積のある公園に向かっている 河川敷を歩いていた 日が暖かく風が涼しいので散歩している人が多く すれ違う度に挨拶をしていく 元気だねと声をかけられ元気っす!と東兄弟が大きい声で返答した それを見て笑顔で別れる 和やかな時間だった 照輝くんは俺の隣の車道側を歩き 車が通るたびにそっと腕で庇ってくれる その健気な行為に嬉しさと気恥ずかしさを感じた これでも年上なんだけどとも思うが この年頃の子は自尊心が高いからお任せしとく 逆に騒ぐ前の二人を見てないと危ないし リード二本あればななんて思ったりして 古びた理容院や純喫茶を過ぎ影になった道を抜けると 背の高い木に囲まれた公園に来た 今日はここで遊ぶらしい 少し遠いのでインドア気味の俺はあまり来たことがない 喜一に誘われな時や学校帰りの時ぐらいだ ここは遊具は少ないが、地元のスポ少の子らがサッカーや野球をしているのを見かける 遊具は滑り台や鉄棒、ブランコなどだ 小学生より中学生ぐらいの子が普段多くてボールで遊んでいるのを学校帰りに見かける 「貸切だー!いえーい!」 大声を出しながら喜一が我先にと駆け出した 「あっ!ずるい兄ちゃん俺が一番だからなー!」 すぐに守も追いかけた 騒がしい兄弟だなほんと 春の陽光が公園のに注がれ晴れ晴れとした空の青さが目に目に映る 昨夜僅かに降った春雨がキラキラと光を反射する水溜まりを作っていた 時折春嵐が散った桜の花びらを舞い上がらせている 陰には雪解せずに残る雪と 春泥があるところも見受けられた 下にあった氷が張った水溜まりをぴょんと影を走らせ 黄金色が跳ねた それは照輝くんが大地を飛んだ様子だった ストンと着地すると俺の方を振り返り 春の日差しのように朗らかに笑みを浮かべた 風に揺れる髪が煌めいて空の青さを映した水面の様に 青く輝いていた 現実離れした様な景色に 春の朧の中で幻を見ているのかもしれないなんて思ってしまった 「大丈夫ですか馨くん?」 コテンと子供らしい仕草でこちらを見ている 「あ、うん。大丈夫、あったかいねなんか眠たくなってきたかも」 春眠暁を覚えず つい見惚れていたのを誤魔化す様に言う それにふふと微かに笑う照輝くん 「そうですね。ぽかぽかとして眠たくなります」 柔らかい笑みを浮かべて同調してくれた 気を遣われた気もしなくもないな 慮った対応に胸がふわふわとする きっと春のせいだ そう決めつけて俺は水溜りの上を飛んだ 「パス!パスパスパス!…………兄ちゃんのばがぁああ!!!」 うわぁああん と独走してボールを独占する反チームプレイ代表みたいなことをしている喜一は弟を泣かせ満面の笑顔でサッカーコートを走っている 周りの遊びに来ていた小中学生を混ぜた混合チームが唖然としている 知り合いの暴挙に恥ずかしさを感じる 「なはははは派!ておっとあぶねぇあぶねぇ」 「……」 俺のいるゴールまで一直線に向かってきた喜一だったが 素早く人の間を華麗に避けて現れた照輝くんが 喜一の暴走プレイをサイドからボールに向けて蹴り上げ邪魔をしようとした だが喜一は照輝くんに気付きボールを空中に蹴り上げる事で回避した ボールは喜一の後ろに落ちそれを素早く捉えた 二人は睨み合う 「やるねぇライオン丸。だがこのボールの化身と呼ばれた喜一様には通用しねぇーぜ!」 それだとボールが人になった化物だけどいいのか 内心思ったが言わせておこう面倒くさいし 「サッカーボールの擬人化とか意味がわかりません」 あっそれ言っちゃうんだ 「細かい事はいいーんだよ!くらえ!」 喜一はフェイントをかけ照輝くんの横を抜けようとした だが照輝くんは目だけでボールと動作を追い 素早く反応してボールを奪おうとした 体格差もあり不利だが小学生とは思えない動きで喜一に迫る 「あーしつけぇ!サバンナじゃねーんだぞー!」 「だから、ライオンじゃ、ないんですよって、言ってるじゃないですか!!」 互いにボールを奪い合いながらこちらに迫ってくる あれ大丈夫かなこれ ゴールキーパーの俺は内心臆する あんまり球技が得意じゃない俺はここでひたすらボーとしていた 白熱している少年たちとでかい子どもを見ながら佇んでいたのだ こんな事態は想定していない 奥の方で「やっちゃえテルー!!ぶっ飛ばせー!」と守が大声を出している 競技としてアウトだし一応兄貴だよそれ 歩幅と体格の差で喜一が前に出る 身体能力が高い喜一相手に流石の照輝くんでも厳しい 初めて見た勝負事にムキになって汗をかいている顔は年相応だった。喜一も小学生相手に全力で挑んでいて他の子達はぽかんとしている コートの土を蹴り上げ颯爽と二人はボールを蹴り合っている 「シューーーーッ「させない!」ト!?」 眼前に迫った二人にビビり俺はよくわからないが腰を下げ構える このポーズの意味は正直わからない 寧ろ構えることによって蹴り上げられたボールが迫ることに恐怖する そう臆しているとなにかあったようだ 脚を蹴り上げる構えでシュート!と叫ぶつもりだった喜一は斜め後ろにいた照輝くんがスライディングし邪魔をして喜一は明後日の方向にを蹴り飛ばした ボールはゴールポストに当たりコート外に出て行った 「あー…クッソ~悔しい!やるなライオン丸ー!さすが歌舞伎町の夜王」 「それわざと言ってない?ちなみに百獣の王ね」 「あなたもでかい割にそこそこ動きますね。結構邪魔でした」 「なは!だろぉ!さっすが俺様喜一様!なっはっは!」 「きっと褒めてはいないと思うよ」 元気が有り余っている様で何よりだ 若いな なんて思ってしまう十六歳の俺 「てかきーくん泥だらけじゃんか。おばさんかな怒られるぞー」 「まじか!やべーブチギレ案件じゃね?守のせいにしよ」 なんてひどい兄貴だろうか 追いついた守がありえねー!と抗議している ふと見ると照輝くんも弾いた泥が当たったせいか靴と頬が汚れている 近づいてしゃがんで視線を合わせる 照輝くんは俺に気付き近づいてきた俺を見て目を丸くしていた 「ど、どうかしましたか馨くん」 「動かないで…」 「あっ…」 呼吸を感じるほどの距離 照輝くんの色素の薄くて長い睫毛と眉根を寄せた凛々しい眉毛、形の良い鼻と薄桃色の唇がよく見える そっとハンカチで頬と眦あたりを軽く拭く 「よし、とれた」 「うっ…あの、ありがとうございます」 「いえいえ、怪我しない様にね。きーくんに合わせてたらろくな目に合わないからね」 照輝くんは即答してはい!と返事をしてくれた 僅かに白みが目立つ小麦の肌が赤く色づいていた 可愛いな ぽんぽんと頭を撫でて俺はゴールポストに戻った 「ゴールキック頼むー」 ぽいっとボールを手渡された 「蹴ればいいってこと?」 そこから?はぁと言われカチンときたが教えてもらう側なので大人しく従う 運動に呪われた俺は遠ざけていたから知らなくても仕方がないのだ 喜一の指示通りゴールポストの位置について構えた 離れたところから照輝くんたちとニヤついている喜一が見える 注目されて緊張する 大丈夫ただまっすぐ蹴ればいいんだから よし!いくぞ! 全力で蹴り上げた 体重と遠心力をうまく作用させ奇跡的なフォームでボールは蹴り上げられた 頭上に ボールは後方に跳び上がりゴールポストと枠に衝突して 前にいた俺の後頭部に跳ねてぶつかり そのままオウンゴール形となって集結した 俺は「ふぬぅ!」と情けない声を出して後頭部にうけた衝撃のままに前に無様に転んだ 「馨くん!!」 照輝くんの悲痛な声が耳に聞こえた すこしグワンとする頭を上げ前方を見ると こちらに駆け出してきた心配そうな顔の照輝くんと 腹を抱えて指を差しながら抱腹絶倒して笑っている喜一が見え 突っ伏した 冷水が汚れを洗い流す まだ十分冷える風が吹く中、体と顔についた泥を洗い流し 目立つところを濡らしたハンカチで拭き取った 横で同じく濡らしたハンドタオルで照輝くんも俺についた泥を拭ってくれていた 「いやー、恥ずかしいなぁ。照輝くんもごめんね。ありがとう」 「いえ気にしないでください。怪我がなくてよかったです。馨くんが運動苦手なことがわかっているのに止められなかった僕が悪いです」 それは流石にどうだろうか あれは自分でも百パーセント自業自得だ 優しいフォローが心に染みる 少し離れた広場でまだ遊んでいる彼らの掛け声が聞こえてくる 派手に転んだ割には思ったより汚れていなかった ハンカチとハンドタオルを水で洗い流して絞り そして荷物が置いてある日陰のベンチまで歩いた 額に汗をかいた照輝くんの肌がキラキラとしている ふわっと照輝くんのお日様のような安心する香りがした 出会った時とお泊まりした時、抱きしめあった時以来の香りだ クンクンと思わず頭から首に沿って鼻を近づける 「あのっ!どうかしましたか?」 あわあわとしながらも照輝くんは動かずにいて 好きなようにさせてくれた 「うんとね。照輝くんの香りがする」 「えっ!?僕のですか?今汗かいててくさいですよダ、ダメです!」 顔を真っ赤にして離れようとした その初心さに悪戯心が芽生え逃さないようにぎゅうっと抱き込んだ 「わっ!わわわ何するんですか馨くん!ダメですってば!」 「あはははは!」 二人で大騒ぎであった 混乱してて慌てているが胸を軽く押されているけど強く抵抗はされなかった ぎゅっとさらに抱きしめスゥーっと嗅ぐ ふぁ落ち着く 「臭くなんかないよ。すごい落ち着くんだ」 抱き込んだ頭の耳元に言った それにビクッと照輝くんは震えると大人しくなった されるがままだ 柔らかい黄金色の髪に頬を擦り付ける あー癒し効果がハンパない アニマルセラピーだろうか 確かにこれははまる すりすりとハァ…と溜めた息を吐きながら堪能する あれ? 照輝くんが大人しい 流石に苦しかったかな?と思い少し離して窺う 「キューーーッ」   照輝くんは顔を赤くして目を回していた やっちまったな! と何処からか声が聞こえた気がした 「んむぅ……………はっ!」 バサッと額に置いていた寝れたハンカチをベンチに落としながら寝ていた姿勢から上半身を折り曲げるようにして 起き上がった 「あっ!起きた?ごめんね苦しかったよね」 ベンチに腰掛けたまま馨は言った 確かにいろいろあって苦しくて そしていつのまにか照輝は気を失っていた 「えっと、いえ大丈夫です」 はい、と馨から結露した水滴を拭かれたスポーツドリンクを手渡されそれを受け取りお礼を言った 確かにすごい経験をした気がするが正直刺激が凄くてあまり覚えていない 柔らかくて温かくていい香りがして 胸がキュウと苦しくなって 密着して馨の甘い蕩けるような声音にゾクッとして そうしていたらいつの間にか気を失っていた それは流石に言う事じゃないと思い 黙した なぜか恥ずかしくて馨を直視できない照輝だった パキリッとプラスチックの蓋を開け冷えた液体を流し込む 熱く渇いていた喉に冷たい刺激が心地よかった 一度で半分飲んだ それを黙って見ていた馨は同じように手に持っていたお茶を飲んだ こちらは僅かに緩くなっていたが麦茶の香ばしさが香り美味しかった 照輝は横目で馨を窺う 馨は静かにサッカーを楽しんでいる子らの様子を見ていた 馨が黙って静かに 自分を映さないどこか遠くを見ている姿を見ると 照輝は胸がざわつき、少し切ないような歯痒い気持ちになる そんな顔をしていで欲しい どうか笑っていて欲しい どうか僕だけを見ていて欲しい そんな子供じみた思考に照輝は虚しさを感じる 子供の自分には何もできないと突きつけられるだけだからだ その瞳には何が映っているの? どこか遠くへ行ってしまうような そんな焦燥感が照輝を苛む 「ん?どうかした照輝くん。まだ具合悪そう?」 「…いいえ、大丈夫です」 声音が小さくなってしまったが この心情ではうまく誤魔化せない 「まだ具合悪いなら無理しないで、ほらここ使っていいからさ」 ぽんぽんの馨は自分の膝を叩く 膝? それはどういうことだろう 疑問を感じ首を傾げる 「ほらさっきみたいに具合悪い時横になるといいでしょ?弟もよく人酔いしたから膝枕よくやってたし」 なんてことないよ と無垢な笑顔で誘う馨くん つまり膝枕に誘われていると理解した照輝 さっきみたいに? そういえば自分は先程横になっていた つまり気を失っている間馨くんの膝枕を堪能していた事になる その事実に顔が熱くなるのが自分でもわかった 膝枕なんて幼稚園の時縁側で寝てしまった僕を祖母が膝枕してくれたことがあっただけだ その時は嬉しさしかなかったけど 馨くんの膝という事実に何故だかいけないことをしてしまったような気持ちになり、心臓がドキドキとしているのがわかった 「……お気持ちはありがたいのですが、この度はまたの機会に」 んん?どこの会社員のお断りの言葉かな? 目を泳がせてる様子に恥ずかしかったのかと自己完結して納得した 「わかった。でも無理しちゃダメだからね。熱中症だったら危ないからさ」 小さくはいと返事をして隣におとなしく座った まだ冬の残滓が残り、あと何日で雪は溶け氷が張らなくなり咲く桜より散った桜の花の方が多くなってしまうのだろうか まだ前にも後ろにも進めていない俺は 時間の中に取り残されるような既視感に囚われる きっと照輝くんもあっとゆうまに大きくなるんだろうな すこし年寄りくさい考え方かななんて思う 変化かぁ… それも日々を過ごす内に季節の移り変わりと共に感じるものとなった いや季節よりはやく目に見えない時こそ変化が大きいのかもしれない 呷ったお茶のペットボトルはいつの間にか飲み干していたらしい 無言で握りつぶして蓋をし、照輝くんはまだ残りがあるのを確認して近くの自動販売機の横のゴミ箱に捨てた うーん何か追加で買っておこうかな 尻ポケットに入った誕生日に買ってもらった財布を取り出した そして冷たいと書かれた飲み物の中からレモンティーを買った ゴトンッという音と共に下の所にドリンクが落ちてそれを持ってベンチへと振り返った そうしたらベンチで休んでいた照輝くんはこちらを見ていた なんだか照れ臭い気持ちになり小さく手を振る それに気付きた彼はしっかりの手を挙げニコリと笑みを浮かべ手を振りかえしてくれた 緑の中で手を振る姿は先ほど見たタンポポに似ているな なんて思ってしまった 確かダンデライオンだっけ英名 ライオンのたてがみなんて、ぴったりだな きーくんに散々揶揄われてるから教えたら怒るかな 近くに寄ると照輝くんは俺が手に持っている飲み物を確認したようだ 「レモンティーが好きなんですか?」 「んーそうかもしれない」 「ふふっ、なんで曖昧なんですか」 「たまーに飲みたくなるんだよね。いつもは甘くて家で氷入れて飲むの好きなんだけどさ」 「なんとなくわかります。氷は…この辺だとコンビニでしか買えなさそうですね」 キョロキョロと辺りを見ている照輝くん 汗が一筋の線を描きながら首をたどり青色のシャツに吸い込まれた それがなんだが、喉が渇くような感覚に囚われた それを誤魔化すようについ持っているペットボトルをあっと内心思った時には首筋に当ててしまった 「ひゃっ!!」 ビクンと猫のように跳ねた しておきながら面白くてつい笑ってしまった 照輝くんは頬を赤くして眉根を寄せ、睨んでいた 「ご、ごめんごめん。…ふふ、ふふは」 「……馨くんも意地悪なことするんですね」 少し拗ねた声を出してシャツより濃い青のハンドタオルで防ぐように首にかけた その様子も可愛らしくついにやけてしまう バツが悪そうしながらも大人しく隣にいてくれる 「うん。つい魔が差してね。ごめんね」 まだ納得していないようだけど次はやめてくださいねと言われ許してくれるようだった 俺は新しく買ったレモンティーの蓋を開け 照輝くんに差し出す 「飲んでいいんですか?」 「うん。お詫び。甘いけどちょうどいいんじゃない?」 じっと見たあと、静かに受け取って小さい声でいただきますと言ってクイっと飲んだ 溜飲するたびに細い首の喉仏が動くのがわかった 男の子らしい姿を垣間見て声変わりする前の声も聞いて見たかったななんて思った スッとレモンティーが返された 「ありがとうございます馨くん。確かに甘いけど、今飲むにはちょうどいいですね」 スポーツドリンクのより甘いからね 俺も照輝くんにならってごくごくと飲んだ わかりやすい甘さとレモンフレーバーの味がした 紅茶の香りとかよくわからないけど、こういう飲み物という認識で飲む 唇に残った液体を舌で拭う 行儀の良くない行為を照輝くんは見ていたようだ お代わりする?と聞いたがぶんぶんと首を振り断られた そんなに強く否定しなくても… そう思ってしょんぼりと蓋を閉めようとしたら横から奪われた 「ゴクッゴクッゴクッ!ぷはぁ!あー喉が渇いたぁー!サンキューな!」 ニカっと笑い他人から奪ったレモンティーを飲み干し 蓋を閉めてゴミ箱に投げつけた カコンと音を立て中に入った 「何するんですか!馨くんの飲み物奪うなんて野蛮です!謝ってください!」 髪を逆立てプンスカと怒って喜一に詰め寄った その様子を意に介さずへらへらとした様子の喜一 「ははっ!元気だなぁお前。かおるっちわりぃーね?許してちょーだい!」 「……はぁ。まぁいつものことだし「いつものこと!?」?…ちゃんと倍にして返してもらうからいいよ」 わざとらしく微笑む 途中照輝君の声で遮られたけど俺の代わりにご立腹のようだ 普段から人のものを当たり前のように食べたり使ったりする喜一に今更説教してもなぁという諦めである ちゃんと記憶している 千百八十円だ 「千百八十円ねきーくん」 「え?!マジで!?」 「まじまじ」 「うわー俺そんなに借りてた?盛ってない?あっ、嘘ですそんなことするわけないですよねえへへ」 途中で笑みを深めたら今背中をボコスカと照輝くんに叩かれている喜一は態度を変えた 身に染みているようだ俺の怒りの限度を 「ちゃんと返す返します!だからご勘弁をお代官様!」 「当たり前だからねきーくん。誰が悪代官だ!」 ペチンと頬を叩く 俺そんなこと言ってないと言われながら照輝くんと俺に挟撃されている ぽこぽこぺちぺち 楽器のようだ 「うわぁーーん!!俺を無視してイチャつくなぁ!!」 守の鳴き声混じりの台詞と共に奴は照輝くんに抱きつきながらのタックルをした その勢いは強くバランスを崩した俺たちはドミノ倒しのように倒れた 「うわっ!」 「おふっ!」 「ちょ!?」 それぞれの驚きの声が出た 上から守がぐずぐずと泣きながら頬を擦り付け全身で照輝くんに抱きつく 喜一の上に乗った照輝くんは暴れていて馨くん!馨くんが!と脱出しようと足掻いている 返って重さが辛い 喜一はなぜか真剣な顔でこれって床ドン?始まっちゃう感じ?ラッキースケベ?とか言って馬乗りだ 一応地面に肘をついて全体重が乗るのを防いでくれている 流石に彼らの全ては受け止められない ぺちゃんこ案件だ 重い…と思って脱出しようとすると 「ひゃっ!?」 シャツの中に自分と違って大きくて熱い手が侵入して腹を撫でている 「色しっろいなー…腹も肉あんまねぇーしちゃんと食ってる?俺の特製スペシャル肉丼食わせよーか?あれかおるっちいい匂いすんねくんくん、なんのシャンプー使ってる感じ?ねぇ?」 人にセクハラしながら矢継ぎ早に問われる ドキドキして慌てる 遠くの方で馨くん!?馨くんに何してるんですか!!とお怒りの声が聞こえた てか今聞くことじゃなくないですか? 腹を往復していた手が上の方に移動して来た時 頭の中でテレビで見たドラマの「もう、子供が見てるのに、ダメな人」って言っていたシーンが思い出された これ昼間にいいのかこれと思ってつまらないからチャンネル変えたけどあれ?俺貞操の危機なの? 守のなんでぇ!なんでぇみんな俺を抜いて楽しそうなんだよぉ~!とお怒りの声も聞こえた 別にそんな意地悪してないけどごめんね守 今から俺、お前の兄ちゃんぶっ飛ばすわ 「天誅!!」 ガラ空きの喜一の腹に正拳突きをした ふぼぁっ!と変な声を出して倒れてきた 素早く腕の中から脱出して逃れる ふぅ…つまらぬものを殴ってしまった 拳を儚げに見つめる 「大丈夫ですか馨くん!!ごめんなさい助けてあげられなくて!」 同じく脱出して腰に巻き付いた守を引っ提げてこちらに駆けつけた照輝くん 随分大きなアクセサリーだね 「いや大丈夫だよ照輝くん。慣れてるから。きーくんはいつも変だからこちらが身構えないとね」 あははと笑って拳の汚れを払うようにヒラヒラとさせる 無事なことがわかりホッとした様子の照輝くん 片手間に守の頭を撫でている こちらも慣れているんだなと慈しみの目で見る 「え?酷くない?俺のこと心配してくれたっていーじゃんつら、つらみ」 春はあげぽよとか謎の言葉を言ってまだ地面に伏せている 喜一 「ほら起きて。自業自得でしょーが。子供の前でセクハラ禁止!あーもう服こんなに汚して」 変なロゴとキャラクターとsuccess!と書かれた Tシャツが泥と土汚れで汚い おばさん怒るだろうなーと思いながら起こしてあげて体の砂を払ってあげた されるがままの喜一が突然抱きしめてきた 「ああそうだな馨。子供たちの前だなんて教育によくないよなダメな旦那で悪かった。さぁ子供のいないアダルトでミラクルでスウィートな俺たちの時間を過ごそうじゃないか」 と気持ちの悪いことを耳元で言われた また悪ふざけをと思って拳に力を込めたら 悲痛な声が聞こえた 「天誅!!」 見事な構えで正拳突きを放ち 喜一の横腹にお見舞いした照輝くんだった 良い一突きだ そう褒め称えて頭を撫でる 途端に犬のようにえへへとした顔で感受した様子であった 「い、いってぇ。俺可哀想、ぐすん」 地面でヤムチャポーズでグスグスしている喜一は無視する いつの間にか離れた守が枝で突いている やめなさいばっちぃから 「てかみんな泥だらけじゃん」 守は転けたのか前が汚れている 照輝くんは靴とハーフパンツが少し汚れていた 俺もなんだかんだ泥ではなく土汚れで汚い この騒ぐアホは全身どろんこだ 泥に突っ込んだ犬のようで情けない 本人は気にしてないようでケロッとしている はぁとため息吐いた 皆が黙って俺に注目する 「撤収」 その一声に三人は素早く荷物を回収して 次の目的地へと進んだのであった 「「たっだいまー!!」」 「「お邪魔します」」 家主の息子たちは靴も並べないでズンズンと廊下に進む 俺は二人の泥だらけの靴を外で乾いた土を払い並べ玄関に置いてあった新聞に包む 「ほらこれ持ってって!お風呂場で洗うから」 「うぃ!第二のかーちゃん?いや嫁だな」 くだらないことを言ってないではよしろ と視線で訴えて黙らせた 隣に戻った照輝くんも靴の泥を払ったようだ 表面についていただけで無事だったようだ ちゃんの靴を並べて玄関に上がった 俺も同じようにした 玄関横の部屋から声をかけられた 「いらっしゃい二人とも。馨ちゃん久しぶりね。テルくんもいつも守ことありがとうね」 明るく声をかけられた 「お久しぶりです。お邪魔してすみません。これよかったらどうぞ」 「あらお煎餅ね!これ大好きなのよわざわざありがとうね。ほんとうちのバカ息子と交換したいわはやくお嫁さんに来てね」 「えっときーくんとはいろいろ苦労しそうなんでなんとも」 いやそもそも男同士だし 「おばさん!これおばあちゃんからです。いつもお世話になっております。だそうです」 遮るように照輝くんが和菓子屋で買った羊羹を差し出した どこか圧がある 「あらやだ皆さん気を遣っちゃってこっちが困っちゃうわ。こっちが普段息子たちの世話にしてもらってるんだから、本当に気にしないでね?おばさん息子たちより大好きだから」 そう言って俺らごと纏めてハグをしてきた 親としてその発言は良いのだろうか 「かぁちゃーーん!シャンプーどこ?てかいつまでやってんの?ほらどいたどいた」 パンツ一丁の喜一が騒ぐおばさんを退かす 「本当この子はガサツね!誰に似たのかしら。お風呂場の棚の下にあるから詰め替えておいてね。ささ二人ともお風呂沸かしてあるから、入っちゃいなさい」 「はい、ありがとうございます」 一礼してお礼を言う 静かに照輝くんも頭を下げた 「はよはいろーぜ!」 マサイ族のようにジャンプをしながら催促される 「そうだね。じゃ誰から入る?」 「みんなで良くね?」 「流石に四人は辛いでしょ?」 「平気じゃね?うちの風呂でけーし父ちゃんこだわりの風呂!」 「うーん、窮屈だろうし先は言って良いよ」 「えー!!折角だしいいじゃんいいじゃん!じゃ先に俺とはいろーぜ!な?いいでしょ?」 飼い主の帰宅に喜ぶ犬、もといマサイ族ジャンプで歓迎してくれる喜一 頼むから俺をジャンプしながら回らないで 「ダメです!あなたとは危険です!絶対ダメです!」 大人しかった照輝くんが吠えた 「危険じゃねーし!マブダチの俺様がいるなら一番安全だろ!」 「全然納得できませんし根拠もないですし信用もないですし安全でもないです!」 お怒りのようだ 悲しいが同意見である 「うるせぇライオン丸!うちの風呂は俺のもの俺のものは風呂のものだ!」 「意味がわかりません!」 ツッコミが正確である 既に才能が開花してるんだな流石照輝くん 「別にいーの!俺はかおるっちと久しぶりに裸の付き合いすんの!絶対すんの!」 「久しぶり!?だ、ダメですぜーーーったいダメです!」 ガルルルと二人は睨み合う なんで白熱してるの? 玄関前で騒ぎ出した二人に呆れる きーくんは小学生になってるし照輝くんは相性が悪いのかガルガルモードだ百十の王様のようだ 「おふっ」 腰に鈍い衝撃がした 目線を下げ窺うと素っ裸の守が顔を赤くして涙目だった その様子で俺に全身で抱きつき見上げてくる 「どうしたの守?何かあった?」 なんとなく予想はつくが、宥めながら聞く 泣かれたら大騒ぎだ 「……」 「守?」 「だって、だってみんな、来ないし、お風呂、来ない。俺と入り、たくないんだうぅ、うぇっ、ヒック」 「そんなことないよ!俺は守と入りたい!入りたいですはい」 「ほんとぉ?」 首を傾げながら聞かれる 裸だから素肌同士が当たり暖かい体温が伝わる 「もちろん。守良い子だからねさぁ一緒に入ろう」 なでなでしてあやす ニコォと笑い喜んでくれたようだ 可愛い きーくんと違って可愛い 「だ、だだだダメです!」 「え、なんでぇ?」 「え?えっと、それより守!馨さんから離れて!裸だろ!」 照輝くんが慌てた様子でくっついている守を離そうとするが、さらに抵抗が増してぎゅうっとしがみついてくる 全てが密着している 足にムニッとした感触がある まぁ仕方ない相手は小学生だ 「こら守!離れて!離れろよ!」 ムキになって照輝くんが引っ張る それにさらに抵抗して顔が真っ赤になった守がべったりとくっつく 「くそぉ!離れろよ!」 なんだか照輝くんまで目が潤んでいる気がする なんだこの修羅場 そこに存在がうるさい彼が大人しかった態度を変え 侵攻してきた 「よし!わかった!兄ちゃんに任せろ!!」 素肌の胸をドンと叩き近寄ってきた 嫌な予感がする 「んしょっと」 なぜか最後の砦であるトランクスを脱いだ ご立派である 「何してんの!?玄関だよ」 「大丈夫だいじょーぶ!誰も見てねぇーって、お前ら意外な」 なぜかドヤ顔で腰に手を当てて言う 自慢なのか知らないが教育に良くなさそうなので拳を構えたい だが守が足まで使って抱きついてくる 重い 仕方ないので倒れると危ないから守を抱っこした その際大人しくされるがままだ 背中をポンポンと叩く 裸の子供をだっこなんて弟が幼稚園の頃以来だ その時は庭でプールに入れた時だったな 泣いていやがったので仕方なく抱っこした時だ ふと視線を感じる下を見る 照輝くんがぽかんとして絶望的な顔していた え?何かあったの!?初めて見たよそんな顔 手をゆっくり伸ばし口が動いて何かを言おうとしたが遮られた 「おう守ずりぃ!俺も混ぜてくんろー!」 全裸でジャンプしながら抱きついてきた 照輝くんを巻き込んで 「ぬわぁ!!きーくんやめい!なんかいろいろエグいから」 「ぬふふ!良いではないか良いではないか」 ご立派様がペチンと当たる 鳥肌が立った ひぇ 照輝くんは呆然としていたがキッと目を吊り上げて きーくんのご立派様ごと蹴り上げた あっ、それ死んじゃうやつ 思った時には遅かった 床に突っ伏して尻を上げ情けなく泣いている姿に あまりに哀れでこちらまで泣きたくなった 見せたくなくて守の頭を肩に寄せ 照輝くんを片手で頭を抱えるようにして目を隠した 惨状である 「あんたたち、なにしてんの」 おばさんが戻ってきておりこの有様を見て絶句し 聞いてきた こちらが聞きたいです、はい 俺は仕方ないので二人を連れてお風呂に向かった 後ろでは啜り泣く声がこだましていた 風呂場でも大騒ぎだった なんとか守を離して服を脱ぎシャワーで守を洗ってあげた 素直に喜んでくれて笑顔だった 馨兄ちゃんが兄ちゃんならよかったと言われたが苦い顔しかできなかった 家族から信用がない兄貴というものは辛いものである 後ろで湯船に浸かって歌っているきーくんはご機嫌でうるさかった 汚れを落とさないで入ろうとしたので首根っこ掴んで乱暴に洗った きゃっきゃっと騒いでいて子供の世話ばかりしているなと思った 照輝くんはなかなか来なかったので声をかけたら小さくはい、今行きますと言った 照れ屋だから慣れてないんだねと思う この兄弟と違って繊細なんだ ハンドタオルで下を隠した照輝くんは頬を染めていて なんだかこちらがいけないことを強要しているような錯覚を感じた こちらにおいでと促し、大人しくきた照輝くんをお湯で流してあげた 水流と共に柔らかい黄金色の毛が流れる あの二人は黒々とした硬い髪だったのでより違いを感じた 自分で体を洗うので俺も後ろで泡立てた泡で体を洗う 先に終えた照輝くんを流し自分の泡を流す 視線を感じて横を見ると喜一が見ていた 「…なに?」 「いや、手慣れてるなーと思って」 「そりゃね。弟の世話してたし、てかきーくんは自由人すぎ」 文句をつけながら自分も浴槽に浸かる 確かに大きな風呂だ それでも四人だと必然的に体が触れ合う 俺の隣は照輝くんで 正面に足を広げた喜一と狭そうに文句を言いたそうな顔の守の並びだった 「朝?昼前風呂もいいね」 「そうだなー、あーお湯が染みるぜーぶくぶく」 湯に沈みながら喜一は言った 守はその頭にお湯をかけ続けている 変な絵面だなぁ でも兄弟らしくて良いと思う 弟の瑞季は恥ずかしがり屋のくせに内弁慶で、風呂だと俺が洗ってあげて膝に乗せて風呂に入っていた 好きなアニメのオープニングとか一緒に歌ったりして 二人だけの空間で、楽しかった … お湯を救いパシャんと顔にかけて洗う ふぅ こんな時ぐらい暗がりは見たくない 自分から滴り落ちる雫を黙って見ていた すると揺れた湯面に黄金色が見えた 横を向くと、タオルを乗せた照輝くんがお湯で血行が良くなった顔で静かにお湯に浸かっている 体育座りをしていた 「照輝くん、それ辛くない姿勢」 「……大丈夫です。元気です」 あまり大丈夫じゃなさそう なんかブツブツ言ってるし、キャパオーバーだったのかな?流石にこの兄弟二人は繊細な照輝くんには刺激が強かったから そう思った 「………早く大きくなりたいです」 「大きく?」 成長的な? 「まだ成長期なんだから大丈夫だよ!既に照輝くんは他の子よりおっきいし」 ??なんか言い方変か?いやそんなことはない 「おっきいし」 「うっさい」 変な茶々をいれるきーくんにお湯をかける この時照輝は不甲斐ない自分を自責していた 意識の根底に偉ぶっているわけではないが自信があった照輝は馨と出会い、彼のために自分が側にいて守ろうと誓ったのだが自分より先に仲の良かった守を知り、デカくて騒々しい喜一にちゃんと抵抗もできずうまく守れない上、肝心の人にはずっと子供扱いで少なからず照輝のプライドが傷ついていたのであった とりあえず裸で抱きついてきた東兄弟に強く不快感を感じた それに強く抵抗しない馨くんにもモヤモヤした 複雑な感情に照輝は困惑してショックを受けていた (照輝くん本当に調子悪いのかな?しょんぼりしている。いつも助けてくれる真っ直ぐな君に何かできないだろうか…) よし!と思い湯船から立ち上がる 皆がキョトンとした顔で見る 「照輝くん、ちょっとごめんね」 「え?あ、はい。え?!」 俺は照輝くんの腋の下に手を入れ持ち上げ 前にずらす 空いた後ろのスペースに俺は座った そして照輝くんを後ろから抱えるようにしてして姿勢をとった 体育座りしている照輝くんが股の間にいる 「こ、これは、あの」 プチパニック状態のようだ そりゃそうだろうな 弟が不安だったり学校で嫌なことがあったり親に叱られた時 本当は向き合ってだけど流石に恥ずかしいから くっついて慰めていた 「ふぅ。こうすると落ち着かない?ほらこっちに背中を預けて良いよ」 「わわっ」 肩を掴んで後ろにひく 体勢を崩した照輝くんは俺の膝と太腿に手を置き 俺に背をくっつけた 後ろから両手を伸ばしそのまま照輝くんを捉えるように抱きしめた 「うわぁわわっ!」 「確保!逃がさないぜ」 パシャパシャと湯が揺れる 次第に落ち着いたのか静かになった 照輝くんのくっついた背からトクントクンと早目の心音が伝わってきた 「ふー落ち着く」 照輝くんの肩に顎を乗せる ビクンとしたが大人しく乗せてくれるようだ 「落ち着きますか?」 「うん。とっても」 「…元気、でますか」 「…うん。とっても」 表情が見えない分、彼から伝わる湯温以外の熱量と 気遣いの気持ちが嬉しかった 前の方で微かにふふと笑い声が聞こえた 「元気出た?」 「はい。とっても」 「…ならよかった」 片手で濡れた髪を撫でる 滑りが良く気持ちがよかった 照輝くんと出会ってから 彼のそばで触れ合うことがどれだけ自分を暗がりから救ってくれているか知っている だから少しでも照輝くんに伝わってほしいなと思った 濡れてしっとりとし、ほのかに湯気たつ肌から汗が流れ落ちていた 触れ合った頬が照輝くんの温もりが伝わってくる そのまま半目で前を見た ひぇ 真顔で半分沈んでこちらを見ている喜一と いつのまにか風呂桶で湯を常に注いでいる守がこちらを見ていた 人の家の風呂でこれは、結構恥ずかしいのでは? そう思ったがここで反応すれば大袈裟にいじられることだろう あえて無視する なんてことないスキンシップなんだよと言うように 「ずるい」 「え?」 「ずるいずるいずるい!!」 バシャッとお湯を波立たせながらたちが上がった喜一 前が揺れていて嫌だ 「…なにが?」 「それ!俺もしてもらったことない!」 ビシッと指を刺された 「そりゃしないでしょ?きーくんと俺じゃ変だもん」 「変じゃない!親友もとい嫁が浮気現場を見せつけるなんてなんて破廉恥な!そこになおれぃ!」   「自分より図体でかいきーくんにくっつくなんて嫌。てか散々くっついてきてるじゃん」 「これとそれはぜーんぜんちがーう!横暴だ弁護士を呼べ!」 「はぁ、ほら大人しくお風呂入りなさい」 「いやでい!いやでい!べらぼうめ!」 どこの江戸っ子だよ 湯を叩きながら暴れる 「じゃあ俺ならいい?馨兄ちゃん??」 笑顔で見てる守 「まぁまも「ダメです」」 また重ねられた 「なっ!テルだけずっりぃぞ!馨兄ちゃん独占してずるい!」 「ずるくない。とっても仲良しだからいいんだ諦めて」 「い、いやだ!俺だって馨兄ちゃん好きだもん」 「だったらそっちの兄ちゃんにして貰えば良いだろ」 「え?嫌」 即答だった 「なんでぇ!?俺が兄ちゃんだろ?何万回だって兄ちゃんがぎゅってしてやんよ!さぁこい守!天国に連れてってやんよ!」 大きく腕を広げていう 「嫌!!兄ちゃんうざい!」 拒絶がすごい 「なんでだよ!」 「うざい!でかい!かたい!くさい!」 「ちょ!くさいはやめろよ!ガチで傷つくだろうがぁ!この!」 無理やり後ろから抱きついて暴れる 「やめ!馨兄ちゃんの方が優しいし可愛いし柔らかいし良い匂いだもん!兄ちゃんはいや!」 ええと褒めてくれるのは嬉しいが、男としては喜びにくい 筋肉つきにくいだけだし、柔軟剤の匂いだし なぜだから照輝くんもうんうんと頷いている 「そんなことない!そんなことない守!兄ちゃんだってナイスバディですごいんだぞほら素直に言ってごらん」 無駄にナイスバディの発音が良かった 「絶対嫌!お隣の久美ちゃんも喜一くんはないねって言ってたもん」 「え?まじ?」 項垂れてしまった 確か大学生のお姉さんだったような 「このぉどいつもこいつも!くらえ!」 桶を拾って上から叩きつけるようにお湯をふらす 「こらきーくんやめなさい!」 「やめてくださいそれでも高校生ですか」 もっともな意見を言いながら体で俺を庇う照輝くん お尻が顔の真ん前だよ照輝くん 「高校生がなんぼのもんじゃー!」 大暴れする喜一 お湯が減るからやめてくれ 「馨くんを見習ってください!ダメな大人になりますよ」 淡々と告げる 「うっせー!偉そうにライオン丸!子供のライオン丸に言われたくねぇ……あれお前意外と、てかは」 「ッ!!!」 何かを言いかけた喜一は照輝くんの鋭い桶の投擲攻撃により沈没した きゃっきゃっと横で守がテルすげぇと感嘆している むすっとしたまま照輝くんはまた俺の間に座った 落ち着いてほしいと頭をなでなでしておく 「あんたたち!いつまで騒いでお風呂入ってんの!」 お叱りを受け、皆ではーいといって お風呂から上がったのであった なぜかタオルで三人拭くことになった俺は 犬を飼ったらこんな感じだろうかと思いながら拭き終えた 着替えを借りてクソダサいTシャツを着て 兄弟の部屋に向かった
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