散る桜 登る太陽

6/7
前へ
/13ページ
次へ
きーくんの部屋は二段ベッドで物が溢れていた 何だろうこれ……パンツ⁉︎ テーブルに山盛りになっていた塊から持ち上げたのは青のトランクスだった 「いやーんかおるっちのエッチい」 「こんなもの出しとく方が悪い」 ブンと床に叩きつける 「欲しかったらあげるぜ」 「いらない。全然いらない」 グラスが乗ったお盆を守が退けてくれたテーブルに置く 仕方ないあとで畳んでおくかと内心思う カタンッ 机に置かれたもう一つのカットフルーツが入ったガラス皿を照輝くんは静かにおく 結構重そうなのに平気な顔をしていた 「さぁなにすっかなぁー」 ガラクタの山からゴソゴソと何かを探している まぁゲームだろうけど 「きーくんその前に課題」 「えー…なにそれー」 「だから課題だってば、そっちのクラスだって出てるでしょ?」 「あー…、かもしんないーあ、あったあった!」 「小林先生課題忘れうるさいよ」 「しってるしってるー」 「常習犯め…」 俺は呆れながら顔を前に戻す 守が鉛筆の先に触れそうなくらい短く持って 漢字のなぞり書きをしている 漢字ドリルを見るとブレていてうっすら透けている線をなぞろうとしている努力の跡が見受けられた 隣に座る照輝くんは同じ漢字ドリルをやっているが なぞり線にはみ出さず綺麗に素早くなぞっていて既に終わりそうだ 「照輝くん終わりそうだね」 「はい。以前予習して勉強したところだから早めに終わりそうです」 「お、俺もすぐ終わるもんね!」 「わかったからちゃんと終わらせろよ」 ドリルを鞄にしまい算数と書かれたノートを取り出し予習をし始めた 偉い 「きーくん!」 「なにー?」 すでにテレビの前に胡座をかいてゲームを始めようとしていた 「お菓子なしにするよ」 「えー!ひど!」 「酷くない!隣のクラスなのに教科の先生に会うたびに東をよろしくって言われる身になってよ。東の保護者なんて呼ばれたこともあるんだから」 コントローラーを奪い怒る 嫌そうな顔をしてしょうがねーなーと言う態度で守の隣に座った お前の課題だろうが! 皺くちゃの神をポイポイと投げながら目当ての課題を取り出して机に広げる 「因数分解とか使わなくねーまじないわー」 「文句ばっかり言ってないではよ!」 ペンで額を小突く あいたー!とオーバーなリアクションをして課題に取り掛かった 集中すると黙々と問いを解いていく やればできるくせに… 俺は事前に終えていたので子供らの宿題を見てあげようかと思ったけど漢字ドリルならいらないかな ガラス皿に並んであるパイナップルにフォークを刺す 口に運び口の中に芳醇な香りと甘みと酸味が広がり美味しかった そしてアイスコーヒーでリセット 悪くない 相性がいいわけじゃないけど いちごにフォークを刺してそう思った …うま キッチンに箱詰めされた果物や頂き物と思われる食べ物が重ねてあったので振る舞ってくれたのだろう 今度は葡萄を刺して照輝くんの口に向ける 気づいて逡巡したあと口に含む 頬が膨れた 「おいしい?」 「はい。美味しいです…」 子供扱いしすぎたかな 照れ臭そうだった またパイナップルにフォークを刺して食べようとすると じっと視線を感じた 照輝くんと、守からだ きーくんは黙々と解いている 「俺も~」 守が甘えた声を出したので自分で食べようとした果物を守にあげる うまーと言って笑顔だ 照輝くんを横目で窺うとホッとしような残念のような複雑な表情をしていた フォースの使い回しも良くなかったかな ひょいと摘んだ葡萄が口に放り込まれ 甘い香りと果汁が広がった …うま 「馨くんは果物が好きなんですか?」 トントンとテーブルで問題用紙とノートを揃えて鞄にしまった照輝くんがそう尋ねた 「うん。結構好きかも」 普通の菓子よりこういった果物の方が甘味だけでなくフレッシュな香りと瑞々しさを感じるから好きなのかもしれない ケーキなどももちろん好きだけど あるとついつい食べてしまうのは果物の方だ よく弟とこたつのみかんを奪い合ったものだ 今更共有する果物を一人でがっついていたと反省してフォークを置く 「僕も好きです。お菓子とか普段あんまり食べませんが、果物はよくおばあちゃんが頂き物でもらうのでよく食べます」 そういえば照輝くんの家の仏壇にも季節の果物がよく供えてあった 「何好き?」 「梨や桃と、柿やびわとかです。何でも食べますよ」 そう柔らかく笑った 「俺も好きだよ。りんごもイチゴも蜜柑も葡萄も。ドラゴンフルーツって食べたことある?」 ありませんと首を振る 「外側が赤くて果肉が赤か白で、黒い種の粒々がたくさんあるやつ。そんなに甘くなかったけど。あとマンゴスチンとかスターフルーツとか思ったより美味しくなかったな。あとライチは美味しかった。一度お土産でドリアンキャンディもらって舐めたけど二度と味わいたくないと思ったね」 照輝くんがクスクスと口元を隠して笑う こんな話でも笑ってもらえて嬉しく思う 「俺も!俺もライチとかマンゴー食べたことあるよ!」 「マンゴーかいいなぁ」 「僕は食べたことないですね」 「アイスとかも?」 「はい」 「なら今度食べに行こうよ。美味しいよ」 「はい!是非行きたいです」 守のドリルを確認して大丈夫だと言ってしまうように促す さっきから大人しいきーくんは…既に終わらせてゲーム機に戻っていた 仕方ないので名前と問題を全部を終わらせているか確認…うん字が汚いけど出来てる それを気を利かせて学生鞄にしまってあげた 「早くやろーぜー」 「何する兄ちゃん?」 「四人だろ?ならんーマリオカートかスマブラが無難じゃね?」 「俺はそれでいいよ。照輝くんはどう?」 「お任せします」 気を遣える小学生だ 既にキャラ選択で兄弟であーでもないこーでもないと争っている二人に見習わせたい 横からコントローラーを照輝くんから手渡される さて、遊びますか 「….」 「あは!あはははは!あはっ?あはははは!」 「うわー逆にすげぇ」 「そんなに落ち込まないでくださいね馨くん。…ちょっと調子が良くなかっただけですよ。次は勝てますよ」 …… 照輝くんの必死のフォローも今の俺には響かなかった 「へ、へ、へったくそー!」 「…!」 「いっひゃ!?」 晒されている太ももをつねってやった このバカきーくんめ… 最初のマリオカートで俺は強制的にピーチ姫できーくんがクッパ、守がキノピオで照輝くんがマリオだった 同時に走り出したが俺は操作をミスし逆走 なんとか操作をし通常ルートを走るも壁にぶつかりトラップには引っかかり溶岩の海に落ち三人のアイテム効果の妨害を全部引っかかった 操作して落ちそうになった時後ろから甲羅を飛ばして突き落としたきーくんには正直本当にムカついた 説明書を読み込み最初は通常運転していた照輝くんは次第に慣れ独走していたきーくんと張り合っていた ゲームの中でも俺に配慮してくれて わざとらしくトラップを置くのも俺が自ら踏み、投げた甲羅は必ず俺に命中して照輝くんの方が顔を青染めていた だから気にしないできーくんを倒してほしいと言っておいた 後半戦はなんとかきーくんに勝ち越したようだった 守は普通だったらしい それどころじゃなくて悪いけど気にしてられなかった その後のスマブラも酷いもので、 ひたすら自滅しドンキーコングの煽りがきっとしばらく夢に出そうだった その度に照輝くんのリンクが俺のカービーを守ってくれた なのに吸い込んでごめんね 守は二人の争いに巻き込まれて吹っ飛ばされいたピカチュウだった 「ばっつゲーム!ばっつゲーム!」 「…すればいいんだろ!ふん!」 「か、馨くん…」 「ねぇこれたべていい?ねぇってば!」 俺は部屋の隅で体育座りをして拗ねていた 仕方ないだろう、きーくんはまだしも小学生相手にも惨敗し最下位続きだ拗ねたくもなる あわあわと慌てている照輝くんが手を触れていいのか分からず彷徨わせながらそばにいて慰めようとしてくれる その度に虚しくなるよ… あと守それは人のお菓子だよ やかましく罰ゲームを所望するきーくんに応えるわけじゃないが、うるさいし男らしくないのでそう言った より照輝くんが眉を下げて不安そうな顔をしている 俺のことで心配しなくていいよと言葉なしに頭を撫でる 「どうすっかなぁー、裸踊り?「「却下!」」」 俺と照輝くんの言葉が重なる やるわけないだろ! 「えーじゃあ何する?ねぇねぇ」 「え?俺が決めるの?」 「じゃあ秘密を話すとか」 「ないとそんなの」 「えー!じゃあ恋バナとか!」 「はぁ?」 宿泊活動の夜かよ 呆れてため息を吐く そういえば照輝くん却下してくれかったなと横目で見ると なぜか緊張したような顔をしていた どうしたんだろう? 「ほら、中学の時のあの子とか?」 その言葉に横の照輝くんはビクッと飛び跳ねた 「照輝くん?」 「な、何でもないです」 プルプルと震えていた 寒いのかな 「なぁチューしたの?ちゅー」 「バカ!子供の前で何言ってんだよ!」 「えー今のお子様はませてるから大丈夫じゃね?守はお子様だけどな」 「あっ!ひでーよ兄ちゃん!お、俺だってちゅーの一つや二つぐらいあんもん!」 「うちのかーちゃんとかとーちゃんとか爺ちゃん婆ちゃんとかか?」 「うっ、バーカハーゲ!」 「ハゲてねぇよ!フッサフサだわ!」 また、兄弟で争い始めた グラスが倒れそうだったのでそっと離す 照輝くんは正座したまま俯いていた どうしたんだろう本当… 「具合悪くなった?」 ブンブンと首を横に振った …心配だな 静かに背をさする 大人しくされるがままだった 「こ」 「…こ?」 俯いていた照輝くんがゆっくりと顔を上げた 額には僅かに汗をかいている 「……………こ、恋人がいたん、ですか?」 「え?」 「今も、い、いるん、ですか?」 この雰囲気は泣く手前のような気配を感じた なぜだ? 喧嘩していた二人も掴みあったまま固まっている 「恋人?あーいないよ。委員会の子とよく活動してたから、揶揄われただけだよ」 そう言った あの時緑化委員で集まりの悪い委員会ですがサボる奴が多く 仕方なく相方がサボる彼女の手伝いをしていただけだ 「そ、そうでしたか。そっかぁ、…はぁ」 胸に手を当てて安心したように息を吐く 気になっちゃったのかな、まぁ照輝くんも男の子だしな 「まぁ告白はされたんだけどさ」 「こ!?こくひゃく!?」 あ、噛んだ 照輝くんがプルプルと震えて後ろに尻餅をついた 「断ったけどね」 「え?なんで?」 きーくんが尋ねる 「その時部活も家のこともあったし、ほら恋愛とかよくわからないし」 本気でそう思った 下心なく接していたが、ある日二人でいると告白され その場で断ってしまった 勿体無いと他の見られていた友人にそう言われた … 「ほへーつまんねー」 「悪かったね。きーくんはどうなのさ。あ、聞かなくてもわかるわ」 「な、なんでだよー!」 「勝手に噂が耳に入るよね。告白されるけどウザくてすぐ振られるって、最短一時間だっけ?」 「はー!あっちが勝手に俺を決めつけてきたのが悪いんだよ!まったく…。十分だし…」 「え、まじで?なんで?」 「……その場で自慢したら泣かれた」 「…‥プフ」 「「「あははは!」」」 きーくん以外で大笑いした 珍しくきーくんの顔が赤くなっていた 「本当にいいの?おばさんが電話してあげるよ?」 「いえ大丈夫です。お気遣いありがとうございます。おばあちゃんが家で待っていますので、帰ります。よかったらまたの機会にお願いします」 「あらもうほんとうちの子にしたいわ!交換したい…」 「…母ちゃん」 横の息子二人が複雑そうな顔をしてますよ 「馨くんもいつでも来てね」 「はい。今日は色々とありがとうございました。また遊びに来ます」 お辞儀をする 「もう、うちの子にならない?」 いえいえと曖昧に流す 「送ってくー」 「あ!俺も行く!」 「いいよ大丈夫だから。もう晩御飯だろ?二人で帰れるから」 「はい。お世話に…なっていか」 「おいライオン丸…」 「遊びたいー」 「生意気な小僧め」 「すみません敬ある人には配慮できるんですが」 「なんだと!チビのくせに」 「小学生と張り合って楽しいですか?」 「はぁー?おれよりちっせーくせに」 「別に悔しくないです。成長したら必ず大きくなるので」 ふんと二人は睨み合う 「へんだ!俺みてーに毛がちんこ「天誅!」ぽはっ!」 頭にゲンコツを落とす 子供にナニで張り合うな! 涙目で手を振るきーくんと家族に手を振って 俺たちは帰路に着いた 外は少し肌寒く 帰宅する人たちを横目に商店街とは反対の道を歩く まだ少し濡れた道があった 「お菓子結構残っちゃったね」 「はい。たくさん頂いちゃいました」 フルーツを食べて下のキッチンに下げに行くとちょうどおばさんがいて追加とばかりに器にたくさんお菓子を詰められて持たされた それを消化していたからほとんど駄菓子には手がつけられなかった すぐ悪くなるものじゃないし別にいいか 反対方向から母と子が今晩の夕食は何かとクイズのように話して笑っている 子供は楽しそうに母を見上げ 買い物袋から葱と大根とうっすらと透けた袋から豚肉のブロック肉が見えたので角煮か煮物でも作るのかなと思った 横で歩く照輝くんは静かに寄り添うように隣を歩いていて 道路を側を必ず歩いてくれる それとなく逆にしようと以前したが なぜか注意されてしまってからは好きにさせている 街灯に照らされた髪がフワッと揺れる なんで君を見るとこんなに心が落ち着くんだろう チラチラと点滅する一番星を見上げて 俺は思った ≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ 照輝くんを送ったのか送られたのか曖昧なまま着き 花枝さんに用意したからと食事をご馳走になり帰宅した 時刻はまだ八時すぎた頃だ ガチャリと玄関の扉を開ける 「ただいま」 誰もいない空間に言葉を投げかける 習慣だから苦もなく 止める気もなかった 「おかえり!」 「………え?」 誰もいないはずの家の中から返事が聞こえた 「テル?こんな時間にどこ行くの?」 「馨くんのお家に行ってくる!お菓子忘れちゃってたから」 先ほど脱いだばかりの靴を履き直す 玄関を開けると冷たい外気が頬を撫でる ブルっと身を一瞬振るわせる だけど不思議と体は暑かった 鞄の中に馨くんのかったお菓子が混ざっていたようで 返しに行く用事ができた きっと彼なら食べてもいいよとか今度お邪魔した時でいいよと言いそうだと思ったが 自宅を訪ねる理由ができてしまったのだ 出会ってまだ短い期間だったが 照輝は馨という人物が己の中で かけがえのない存在であるのを確信していた 離れたばかりの彼に会いたい 幼いながらもまだ形にできない思慕が照輝を動かす お隣だからすぐ着く 疲れて苦しいわけでもないので今の動悸は 彼に会える高揚感からだった いつまで経っても慣れることはないだろう 普段落ち着いていて照輝を見つけると可愛い笑みを浮かべてくれる彼 なのにふとした瞬間遠くを見つめその場所にいないような焦燥感を抱かせる照輝にとって初めての存在だった 馨くん! この苦しくも甘い感情に翻弄され 内心で彼の名前を叫ぶしかない幼い照輝 玄関のすりガラス部分から僅かに灯りが見える 呼吸を整え、インターホンを押す なぜかいつも緊張してしまう 何も悪いことはしていない もしかしてお風呂や家事をしていて中断させてしまうかもしれない お風呂…は無理だから家事ならお手伝いできる そうすればもっと一緒に入れる その考えに気持ちが浮き立つ 一度も入ったことのない馨くんの家に入ってみたい気持ちがあった 馨くんはすごく辛いはずだ なのに彼は優しく笑う それがなぜだか苦しくて嬉しいのに歯噛みした ずっと、ずっと一緒にいられたら馨くんを寂しがらせず幸せにしてあげれるのに 根拠もないのに純真な愛情を この時照輝は既に抱いていた 大切なものに抱く愛を ガチャンッ 玄関が開錠される 「遅くにすみません!忘れ物を…」 「は~い!あれ、子供?」 現れたのは綺麗な女性だった … 「あれ?今誰か来てた?」 「う~ん?」 「だから誰か来てたかって…ちょっと何してんの?」 「何って…料理してるのよ?」 フライパンの中から黒い塊が見えた パンッ! 「あっ、いけない!」 電子レンジから爆発音がする 「はぁ…」 折角掃除したのに… 馨は首にかけていたタオルで濡れた頭を拭いて ため息を吐いた 「さな俺はいいよ」 「ほら!食べてよ!」 「いらないって、てかどこを食べればいいんだよ」 「ほらこことか、ここ」 「違いがわからないんですけど」 「うるさい!」 「むぐっ……うへぇ」 苦味の酸味がする何かを口に入れられ 冷たい麦茶で流す 「ふはぁ…死ぬかと」 「は?」 「なんでもないです」 誤魔化すようにテレビをつける へーおもてなしレシピね 頭の中のメモで記憶する 頭の中の少年が喜んでくれるかな?なんて思う 「何にやけてるのよ」 「にやけてないよ」 「ふーん…まぁ思ったより元気そうね」 「…心配させて悪かったよ」 「本当にね」 俺が剥いたパイナップルをフォークに刺して食べた 「美味しい!」 「貰ったんだ。きーくん家で」 「へぇあのお馬鹿の家行ったんだ」 「うん」 「私にはろくに連絡しないくせに」 「悪かったよ…別に避けてたとか無視じゃないから」 「そうねあんたはそんなことできないもんね」 「そっちはどう?おばさんは?」 「普通よ普通。あっ、うちのクラスにすごいイケメンいてね。あとお人形さんみたいな子もいて」 「へぇー」 「興味もないくせに聞くな!」 「いて、すみません」 軽く額にチョップされる 「馨の彼女なんだから大切にしてほしいな」 「さなまた言ってんのそれ」 「言われてんの、アホらしいよね」 パクパクとお菓子を食べ始めた 「親戚ですっていちいち弁明みたいにいうのも面倒よね本当。最近面倒臭いから適当にしちゃってるけど」 「か、勘弁してよもう。きーくんにまで揶揄われたよ」 「あいつには何言っても無駄でしょ。それより最近調子良さそうね」 「そ、そう?」 「何かいいことあった?」 チョコ菓子を口に入れながら問われる 「別に、ないよ」 「嘘」 「…」 「…別に薫のことだからそんなに心配してるわけじゃないけど、無理しないでよ。すぐ潰れちゃうんだから」 「そんなことないさ。平気」 「…それが問題だってわからないのが問題なのよね」 呟くように言った 「てかそれ、俺のお菓子」 「そうね」 「なんで食べてるの」 「貰ったからよ」 「貰った?あげてないよ」 「貰ったの、えーとイケメンの小学生から、さっき丁寧に来たわよ」 「…はぁ!?」 「ちょ!叫ばないでよもう」 開いた口にお菓子を突っ込まれる モグモグ 「何勝手にしてくれたんだよ!ああもう…」 「なんでそんなに怒るの?」 「お、怒ってないよ」 「仕方ないでしょインターホン鳴ったんだから、お風呂まで行けばよかったかな」 「ダメに決まってんだろ」 「なら文句言わないで」 え、偉そうに 普段大人しくて可憐だとか清楚系だとか噂され よく俺といるから囃し立てられてたけど 本性はガサツで男勝りの性格だ 女子の僻みで嫌がらせされた時も 返り討ちにしたらしい 拳を見せられながら語っていた 「で用事はお菓子だけ?」 「そうね。私が出て驚いたみたいだけど、お菓子忘れたみたいだから持ってきたって言ってたわよ。小学生にしては立派ね。あと三年早ければ…」 「そういうこと言わない。悪いことしちゃったなぁ」 「あんな知り合いいたかしら?…瑞季の?」 「いや、違うよ」 嘘は言っていない 互いにテレビを見ながら話す 春も終わりに近づいているそうだ あの公園の桜も、花が散ってしまうだろうな 「仲良いの?」 「うん」 「どこで知り合ったの?」 「どこって。公園」 「なんで公園なのよ」 「なんでってことはないだろ?…あの日、葬式の日の帰りにあったんだよ」 「…へぇー」 勝手に人の麦茶を飲み干す 黙っておかわりを入れる 「別にどうでもいいけど、元気ならよかった」 「うん、ありがとう」 「ふん。少しくらい返事返しなさいよね。お母さんも心配してる」 「…うん、ごめん」 「謝ってばかりね。情けない」 「うぅ…」 「うちの男どもはなんでこーウジウジしてるのかしら」 「そらは、個人差だろ」 「あんたは特にね」 「…」 「バッカみたい。お風呂入ろー」 「え!?泊まる気?」 「当たり前でしょ?何時だと思ってんのよ」 「でもほら、一応女の子だし…」 「一応って何よ」 「なんでもないです」 ふんだと言って風呂場に消えていった ふぅ…疲れる 照輝くんわざわざ来てくれたのに 悪いこと、しちゃったかな… あの輝く笑顔を思い出す 次会えるのはいつかな なんて思うくらい俺は彼に想いがある 自分が暗がりで消えてしまわないのは きっと照輝くんのおかげだから 馨くん!とこちらを呼ぶ声がいつでも思い出せる 思わず笑みを浮かべてしまう 「ちょっと何にやけてんのよスケベ」 「は!?違うし!てかなんて格好しての?!」 「仕方ないでしょータオルないしシャンプーの詰め替えお願い~」 「だからって下着で歩くな!浴室で待ってて」 急いで畳んでいたタオルを渡し風呂場の戸棚にしまっていた 詰め替えを用意し詰め替える 一息つく 一人増えただけで忙しない 一人でいるより考えなくて済むから もしかして狙って?なんて思うけど 何言ってんのアホくさと言う彼女が簡単に想像できた 残った菓子を口に含む チョコが溶け、甘さが広がる 親戚の横田さなはあれでお人好しな面がある ガラス戸に近づいて上を見上げる 照輝くんの部屋の明かりは消えていた 次はいつ会えるかな そう思って 俺はカーテンを閉めた ≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ バタンッ 明かりのついていない部屋に飛び込む 下から名を呼ぶ声が聞こえたが返せなかった 薄暗く月光が差し込む部屋が 見慣れた部屋が全く別物で他人の部屋に来てしまったような感覚に陥る 寒いのに体は熱く ドッドッドと心臓がやけにうるさく耳を塞いでも 当然のように喧しく 蹲る 扉を背にして顔を腕で覆う … ついさっきまで幸福感でいっぱいだったのに 今は箱の中身をかき混ぜてひっくり返したような有様で ぐちゃぐちゃとなっていた 「…うぁっ」 嗚咽が漏れる 何だろうこれは 額を乗せていた膝が濡れている気持ちが悪い …濡れてる 泣いてるのか? ゴシゴシと顔を拭う 腕は濡れていて事実を晒す … わからない 何もわからなかった いつのまにか駆け出していて 家に帰っていて部屋にいる 家の中から馨くん、ではなくて綺麗な若い女性が出てきた それだけなのに自分は動揺し なぜだか黒い冷たいのにとても熱く苦しい感情が溢れてきてその場にいられなかった わからない…わからないよ馨くん また無様に流れ落ちる雫を 照輝は拭いもせず窓から差し込む月明かりを見ていた ≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫ 「おはよう」 「あっおはよう」 早めに学校に来たのにもう生徒がいた 確か彼は藤山冬馬君だ まだ七時過ぎたばかりなのにスッキリとした雰囲気で 女子に人気の美少年だ 生まれつき赤毛らしくストレートな髪と相まって 外国人だと噂もあるらしい 違うとよく話すらしい東から聞いた話だった 「珍しいね真田くんこんなに朝が早いなんて」 「うんまぁ…」 家からいつもより早めに出たのは さながいたからだ 朝ごはんを作り弁当まで用意しなければならなく 奴の摩訶不思議な料理を食べるのを防ぐため早朝から頑張った次第だ 先に家を出て家から二人同時に見られるのは嫌なので 時間差で出た 奴は今頃テレビを見ながらトーストを齧っている頃だろう 家の鍵は俺の下駄箱に入れといてもらう算段だった 「藤山君もはやいね。いつもこうなの?」 「大体かな。朝の稽古があるから」 「何か部活入ってたっけ?」 「一応剣道部、だったけど高校からは辞めちゃったんだ。今は家の道場で朝やってるぐらい」 習慣なんだと告げる 「へぇー実家が剣道の道場なんだ。すごいね」 「すごいわけでもないさ。年々生徒は減るし、お爺ちゃんももう年だからね」 なんてことない態度で話す いろいろあるんだなと思った 普通の美少年だと思ったら剣道少年だったらしい 細くて俺と身長が変わらないのに 詳しくはないけど身長差はハンデになるのかなと思ったがさすがに聞けなかった 「俺日直だから日誌取ってくるね」 「うん。いってらっしゃい」 ふりふりと手を振り見送る 朝から和む時間だった 武道を習っているせいか礼儀正しいし柔和な雰囲気で落ち着く まだこのクラスで浮いている自分にも優しく接してくれるし 早めに家を出てよかったかもしれない …ポケットからスマホを開く 時刻は七時十五分 窓から見える学校に疎に生徒が登校する姿や 朝練をしている生徒が見受けられた LINEを開く あの公園の桜がアイコンの照輝くんのトーク画面は 昨日の遊びに行くまでの連絡で終わっている とりあえず文章を打ち込んだ 『おはよう照輝くん。昨日は楽しかったね。うちに来てくれたんだねお菓子ありがとう。寒かったから風邪ひいてないといいな。また遊ぼうね』 小学生にこんな文章を送るなんて思いもしなかったな と思いつつ送信した 放課後になっても 返信は来なかった 「どぅわ〜〜れだ!!」 「おわっ!?」 後ろからのしかかられ目を覆われる 「きーくん!」 「せいかーい!にひひ」 嬉しそうにひらひらと腕を振りながら笑う 「もう危ないだろ」 「めんごめんご、それより帰り?あそぼーぜー」 「ノリが軽いなもう…。今日はパス」 「ええー何でだよ置いてくなよぉ〜」 後ろから抱きつき拘束された 「重い!」 「あはは〜」 今は下校中だった 周りには人がいないく閑散とした場所だった 「バイト探さなきゃならないんだよ」 「え、バイトすんの?」 「うん」 「かおるっちがバイトかよー…じゃ俺んとこくる?」 「え?ああおじさんたちの仕事?」 「今は雇ってないってさ。繁盛期のイベントの時ぐらいだねー」 「じゃあ違うのがあるの?てかバイトしてたんだ」 知らなかった 飄々としていて普段こういった話はしてこなかった 「まぁね。不定休でばらつきあっけどまぁまぁ金払いいいし。でもやっぱなぁ…」 「なんだよ…」 「かおるっちには不向きだなって、だからごめんね」 「何も言ってないのに断られる身にもなって…」 「へへ、すまんのー」 「うわっ、デカいんだからのしかかるなよ!」 「えへへ、かおるっちがちいせーのがわるい」 「小さくないし!」 わちゃわちゃと騒ぐ 「あなたたち何してんのよ」 冷たい声が届く 二人で揃ってその方向に顔を向くと 横田さながいた あれは外面を剥がしている状態の顔だ 「おうおひさ!」 「恥ずかしいから話しかけないで」 「し、辛辣ー」 あのきーくんすら引いてしまう 「どうしたのさな?」 とりあえずご機嫌を窺う 飛び火は勘弁 「何ってこれ」 その手にはお弁当があった 俺が作った奴だ 「え?手作り」 「まぁ…」 俺は受け取って鞄にしまう 「美味しかったわ。ありがとう。でももう少し彩りと野菜を増やしてちょうだい。あとカロリー抑えたいからハンバーグなら豆腐ハンバーグとかにしてね」 「注文までつけるの」 「いいじゃない。暇でしょ?」 「暇じゃねーよかおるっちは!俺にも作って弁当!」 「話がややこしくなるからステイ」 大人しく座るきーくん 「暇じゃないよ用事あるんだからまた今度ね」 そう言って立ち去ろうとした 「そうだそうだ!これから一緒にバイト探すんだからな!」 えっ変となぜか胸を張っている東 つい脛を蹴る ぴょんぴょんと跳ねている 「……どういうこと?」 「いや、探そうかなって、家にいても仕方ないし」 「お金受け取ってるわよね。ならまだ、あのお金があれば生活は大丈夫なはずでしょ?入り用なの?」 「いや、あるよでも今後のこともあるし手はつけないようにしとこうと思って」 「それはわかるけど、バイトするぐらいならうちに来たらいいじゃない。あの家で一人暮らしたって仕方ないじゃない。いつまでもあそこにいれるわけじゃないのよ」 「わかってるよそんなこと」 「わかってない!ならなんでいつまで経ってもあの広い家にいるのよ。ただでさえあそこは思い出がいっぱいなのに、…言いたくなかったけど昨日泊まってわかったわ。あんた無意識に家族がまだいるように生活してるのよ?わかってる?」 「何を、いって…」 無意識に家族がいるように?そんな馬鹿な 俺の家族は事故で俺以外死んで せめて俺だけでもあの家で残されたものを大事にしないとって 「あの冷蔵庫は何よ」 「え」 「だから中身の話よ。悪いけど…正直怖かったわ」 「何言って、普通だろ?買い出しした食材とレトルトのハンバーグと、卵とか、サイダーとか、アイスとか」 「だからおかしいって言ってんの!」 「何がだよ!変なこと言うなよ!」 互いに睨み合う 昔から喧嘩をすると、あんたたちそんな時ばかり似てるのねと言われた時を思い出した 「あのハンバーグは瑞季の好物よね。サイダーはあんた炭酸苦手で好きじゃないはずよ。アイスもあれ、チョコチップバニラ、あれ瑞季が好きな味よ」 「そ、それは…」 「最初は墓前とか仏壇にでも備えるのかと思ったのよ。でも、冷蔵庫いっぱいに入ってて、ゴミ箱には、中身が入ったままの同じやつがたくさん入ってて、私逃げ出さなかった自分がすごいと思ったわ」 片手で腕を抑え少し視線を逸らしながら言った なんのことだよ、そんなの知らない 知らない 俺は普通に買い物して、俺ばっかりお菓子買うと瑞季が拗ねるから 仕方なく買ってるだけだ その分父さんにお金もらってるし 母さんには甘やかし過ぎって怒られるけど 俺だけなのは可哀想だし 「仕方ないだろ」 俺は笑っていった 二人は真逆で 苦しそうな顔をしていた なんでそんな顔をするんだよ 俺は理解できなくて 今日の帰りにも アイスでも買って帰らなきゃ なんて思った
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加