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ミミンの願い
「先生……どうですか」
ベッドに横たわるハンナの声が、石造りの壁に弱々しく吸い込まれました。まだ若く美しいハンナは名も知らぬ病に侵されていたのです。
「ハンナ……」医師のヨハンが苦渋の表情を浮かべて目を閉じました。
「使える薬草はすべて試したんだが……」
そうですか。ハンナは悲し気に眉を曇らせます。
「方法はもう、ないのですね」ハンナは、窓から見える青い空に視線を移しました。
「神に祈るよりほかは……」ヨハン先生がハンナの視線を追います。この空のどこかに神さまがいるのなら、どうか助けたまえと。
とそのとき、
「お母さん!」両手にたくさんの野花を抱えたミミンが、息を切らせて飛び込んできました。
「ヨハン先生こんにちは」
「やぁミミン。これはまたたくさん摘んできたね」
額に粒の汗を浮かべたミミンは、白い歯を見せてうふふと笑います。毎日摘んできた花を活けると母親のハンナの病気が治るとミミンは信じています。ヨハン先生がそう言ったからです。
早くにお父さんを亡くし顔さえも覚えていないミミンに、母親がもう長くは生きられないなどと誰が言えるでしょう。まだ六歳の女の子に神さまはどれほどの試練を負わせようというのでしょうか。
「お母さんはいつ治りますか?」
「ミミンが花を活けて神さまにお祈りを続ければ、ハンナは治る」
医師のヨハンはミミンの頭を撫でました。ヨハンの目に浮かんだ涙はミミンには見えませんでした。
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