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5.蛇足/内側にかかった鍵は、内側にいても開けられない
ぐしょぬれのシャツを抱えた私を母が睨む。
洗濯物を取り込むこともできないのか。やっぱり使えない奴だ。
母の表情は歪みに歪んで、言い訳ができない私はただ黙って立っていた。足の甲に洗濯物から滴る水滴が当たるのを感じる。
何かが飛んできた。食器か灰皿か、薄い円盤状のそれが額に当たり、私はのけぞって後ろのガラス戸へ倒れてしまう。額の痛みは首から背中にかけて走る熱い感覚に上書きされた。
死ね。そのまま死ね。
人生で何度も聞かされたその言葉が、今日はこれまでで一番字面通りの感情を乗せて耳に届く。
ああ、死んでやるさ。
上半身だけベランダに投げ出され、仰向けになったままの私は目を閉じた。もう開けてやるものかと瞼の力を抜く。
部屋に閉じ込められてどれくらい経つのかわからないが、つまらないという評価すら受けるに値しない人生だったと思う。
どこで間違えたのかもわからない。顎で使われた洗濯物の取り込みの中で救いの手が見えたような気もしたが、私は手の伸ばし方がわからず掴み損ねてしまった。
もしかしたら、あるいは――。
どうなっていたのだろう。それすらも、わからない。
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