メンマ笛

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 捨てきれない荷物の重さまえうしろ。  気がつくと私はチャーシューになっていた。麺の束布団に寝そべって、ラーメン汁に背中をひたひたに濡らして天井を眺めていた。私は自分がラーメンの器の中にいてチャーシューになったのだとすぐに理解できた。そして、取り乱すことなく、その状況をすんなり受け入れることができた。  そうなると私のやるべきことは決まっていた。それは美味しく食べられることだった。とはいえ、自身の味付けをチャーシューである私が今更おこなえるわけもなく、私が今できることと言えば粛々と食べられる時を待つのみだった。  私が入っているラーメンは、厨房と客席を仕切る壁に空いた小窓の小さなテーブルに置かれてあった。お客様の所に運ばれるのを待っている状態であった。お客様に食べられるまでまだ時間がありそうだった。私は暇つぶしを探した。そして手の届くところにメンマがあることに気がついた。メンマといえば竹だ。私はメンマを加工して竹笛を作ろうと考えた。  メンマを手に取り考えた。尺八のような穴を開けてはどうかと。それなら加工するための道具が必要だと私は思った。私は周りを見回した。ちょうど私の入っているラーメン鉢の向こうに爪楊枝が立ててあるのを見つけた。先がとがっていて穴を開けるのにもってこいだ。  私はラーメンの麺を手繰り寄せ、ある程度の長さを確保すると、その先を輪っかにし、投げ輪を作った。そして、ぶんぶんと勢いをつけて回すと爪楊枝目掛けて投げつけた。投げ輪は見事に爪楊枝を捉えた。グイッと引っ張ると麺の投げ輪が輪の中に爪楊枝を捉えたままキュッと締まった。そのまま麺を手繰り寄せ、思惑通り爪楊枝を一本爪楊枝立てから抜きとり、手元まで引っ張ってくることができた。  さあ、この爪楊枝を使ってメンマを加工しようと思ったその時、私の入ったラーメン鉢が宙に浮いた。ああ、いよいよお客様に食べていただく時が来たのだと思い、私はせっかく手に入れた爪楊枝だったが、それどころではないと傍らに放り投げた。  湯気の向こうに大きな男の顔が見えた。どうぞ美味しく召し上がれと私は覚悟を決めた。が、しかし。その男はラーメンの器の中を一目見るなり、勢いよく立ち上がり店員に怒鳴った。 「おい! このラーメン、爪楊枝が入ってんじゃねえか!」    おわり
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