溺れるカクゴ

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 回想が現実の時に追いつくまで、少し時間を要した。灰皿には吸い殻がこんもりたまっている。全てを知ったいま、どんな反応が返ってくるのか、私はいまだ顎を上げられずにいる。 「……そう。みゆは今本気の恋愛してるんだ? よかったじゃない」  予想していた、どんな反応とも違った。前髪の隙間から盗み見ると、奈緒がおっとり微笑んでくれるものだから、目頭が熱くなるばかりだ。 「つまりみゆは、始まる前に消しちゃおうかって考えるほど好きになっちゃったんでしょ。それができるならまず悩まない。すでに手遅れよ」  改めてはっきり言葉にされるとその通りだと思えたし、やっぱり、と頷いてしまえる自分もいた。 「たわいないことで喧嘩して呆気なく別れたりするし、少しのすれ違いで壊れることだってある。普通のカップルだって永遠だなんて言い切れないんじゃないかしら。それを恐れるくらいならそもそも付き合うべきじゃない」  相変わらず厳しい見解である。だけど、これにはっとした。私たちには他のカップルにはない、さまざまな制約があるのはやむなし。ところが今の私の悩みは、ありふれた男女のものとそう変わりないのだと。 「もう少し強くなんなよ。逃げてるだけじゃ何も生まれない。怖いよね、怖いけどさ。二人のことは二人にしかわからないんだから、相手と向き合って決めなきゃ。……心を強く持ちな?」 「心を、強く?」 「そう。その関係を続けていくなら、これからもっと色んな切なさに立ち向かわなければならないから。でもねぇみゆ、相手を想う気持ちが強ければ、なんだって乗り越えられる気がする時だってあるんだよ」  色んな意味で覚悟が必要だと念を押されるたびに、自分自身に言い聞かせているんじゃないかと思える節があって、二重の切なさに覆われる。
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