溺れるカクゴ

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 奈緒だって誰だって、傷つくことは怖い。誰もが切なさを望んで道を切り開いてるわけじゃない。それでも何にも代え難い、譲れない想いが未来を動かす。  確かなことは、アキが私の目の前からいなくなること以上に辛いことはないんだってこと。そして、いつか失うことより今アキを失いたくない想いの方がずっと強いんだってこと。 「私は、何があっても誰に何を言われてもいつでもみゆの味方でいるから、後悔だけはしないで。……さーて。もっかい温泉でも入るか」  奈緒も私と同じ考えだったことに、胸が熱くなる。  友ならば間違いを正し、正しいレールへ誘導してあげるべきなのだろう。だけど私たちは正しくないと解っていて、それでもやめられないのだ。結局は自分。そして自分が決めたことを応援し合える──そんな関係も悪くないと思えた。 「ありがとう奈緒。て、温泉?」 「今、部屋に絵里花と古谷さん二人きり」 「あー」  つまりはいい感じになっているらしいのだが、そこで今夜私たちも寝るのだと考えると限りなく複雑だ。 「ねぇ最後にいっこ聞いていい?」  続けて、あれのどこが好きなの? と尋ねられて、思わず口元が綻んだ。  見るからにアキは無愛想で人当たりも悪い。容姿とスペックのお陰で人気は高いが、彼氏や旦那にして幸せにしてもらえそうなタイプでない。  けれど私は知っている、知ってしまった。常に素っ気ない兄が、たまに見せる優しさを。何に対しても無関心そうなあなたが、時折甘く熱く愛を囁くことを。  願わくは、誰にも知られたくない。 「……ないしょ」  げえ、と言いたげな友と目を合わせる。視線を外した途端に、互いにふっと噴き出した。再び立ち上がった時の視線は、一時前よりうんと高く感じた。
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