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禁断のフラグ
【side✴︎みゆ】
「──んっんン……んっ……」
──ここはどこ。あなたはだあれ?
恐らく私は今、頭上から断続的に降り注ぐシャワーの雨をかぶり、口にはまた違う水分が定間隔で注がれている。
初めてだった。
こんなにお酒を飲んだのも、酔っ払ったのも。そして、見知らぬ男のひとに口移しでミネラルウォーターを流し込まれていることも、もちろん。
「……も……飲め、なっ……」
「飲み込めよ。手伝ってやる」
あたたかい雨に打たれながら、かろうじて瞼を開く。シャワー越しではっきりとは見えなかったけれど、ペットボトルから水を含む姿は妙に荒々しく、それでいて口の端から溢れるさまはひどく肉感的。
「む……りぃ……っ」
手でがっちりと後頭部を固定されて、改めて今の状況が尋常ではないことを思い知る。
はっとしたと同時に再び流し込まれた口いっぱいの水と、それをさらに押し込む得体の知れない舌と、濃厚なキス。
「ン──んん……!」
装いからして社会人だろうということがわかるだけで、どこの誰かもわからない。私の今の状態では顔すら確かめられない。なのにどうして、抵抗力が少しも生まれないのか。
重なった唇から伝う体温とぬくもり……そのぶっきらぼうな物言い。きっと潜在意識がその答えを知っていた。
そう、これは世界を裏切るアバンチュール。ことの始まりは、ほんの数十分前のことだった──
◇
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