禁断のフラグ

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 日本屈指の摩天楼の闇を魅せてくれるスポットライトが、もしもあるとしたなら。道徳のボーダーラインを描く、季節外れのミルキー・ウェイ。  そこに背徳への逢合橋(あいあいばし)が架かれば、ほら。あなたとの出逢いまで、あと……  1、2、──3歩。 「──ひぁ。ごめんなさ……!」  ここは東京。闇夜に染まった西新宿の高層ビル街。飲み会帰り、会社へと忘れ物を取りに戻ったあとのことだった。  ただの前方不注意か、運命のイタズラか。見知らぬ人の胸に頭突きをしていたりする。 「……。真正面から頭突っ込むやつがあるかよ。前見てんのかよ」  不機嫌丸出しの呆れた声に、ぶっきらぼうな物言い。  取り急ぎ頭を引っ込めないと、と脳に働きかけるも、悪酔いしたみたいで体が思うように動いてくれない。  こうして人様に大迷惑をお掛けしている私こと、桜木みゆ──23歳は、社会人2年目の平々凡々なOL。  とはいっても、勤め先の一流企業・化粧品メーカー「プール・マシェリ」の社長は父なので、俗に言う社長令嬢。  なのになぜOLをしているのか。これは両親の願いでもある。 『貴女だけは家柄のシガラミに囚われず極普通の女性として育っていきなさい。決して傲ることのない生活を、自由な恋愛を、ごくありふれた幸せを』  ……それがいつから、荊棘(いばら)を愛しむようになったのだろう。 「おい」  この安心印のぬくぬく感、無条件で懐かしい。香水や洗剤の匂いは一切しないのに、この人そのものの香りが、どうしてか無性に優しく感じる。  などと他人様の胸の中でモフモフしている間にも、視界はズルズル崩れゆき、意識はふらり遠のいていく。 「たく、いつまでそうして……、どうした?」 「きもち……わるぅ……」 「は?」
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