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「それにしても、手紙にしては大きめの封筒」
タカにぃが荷物を取りに戻っている最中、手紙を高く掲げては首を傾げる。
中身は気になるが、兄との約束はきちんと守ろうと思う。開封し忘れることのないように、言われた通り12時前にアラームをセットしてみた。
「──あ!」
ところがスマートフォンに集中していたために、封筒がすっと手から離れ、風に乗って飛ばされていく。
追いかけて、追いかけて、やっとそれを捕まえた先で、ほっと胸を撫で下ろす。辺りを見回すとそこはちょうど、あなたとの思い出が詰まった例の場所だった。
他人として……兄のあなたと初めて触れ合った、愛しい出逢いの場所。
兄妹として……恋人のあなたに一方的にサヨナラを告げられた、切ない別れの場所。
会社前とはいっても、建物が大きいだけにビル前広場もかなり広い。日々出勤・退社するにもここだけは避けていた場所。どんな運命のイタズラか、私は今まさにそこに立っていた。
一年という月日が消化してくれたのか、泣き叫ぶまでの激情に駆られることはもうない。だけど……
涙を呑んで、月を振り仰ぐ。
今頃、何処で何してるのかな?
たまには私を思い出してくれてる?
永遠にあなたの妹だもん。恋人の私は無理でも、兄妹の記憶くらいは大切に胸に閉まっておいてほしい。
祈るような思いで目を瞑ると、あなたとの愛しい日々が次々と瞼の裏に映し出されていく。
言動の一つ一つに胸を高鳴らせていた日々。
嫉妬心で怒り狂った言動に戸惑い、怯えていた時。
さり気ない優しさに頬を幸せ色に染めていた時。
冷ややかな態度に絶望して一人涙した夜もあった。
そのどんな時でも変わらず、私を愛してくれていたよね。
「──っ……」
どうして……、もっと早く気づけなかったんだろう。
アキが私に冷たく当たる時はいつでも深い理由があって、その裏にはいつも火傷しそうなくらい熱い愛があった。一人で旅立ったあの時も、真横を素通りしたあの時も、もしかする……?
そう思えてならず、鞄の奥底で眠り続けていた永遠の光を右の薬指に再び輝かせる。すると抑え込んでいた願望が、涙となってとめどなく溢れてきた。
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