夕立と黒い傘

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 翌日、学校が休みの日だというのに美夏は朝早く目を覚ますと、テレビで天気予報を見た。  学校の先生に聞いていた通り、ここ数日は、急な夕立のおそれがあるらしい。ニュースキャスターのお姉さんは、深刻な顔をして「傘をお忘れなく」と言っていた。  しかし外は既に蝉が鳴き、にわかに夏の陽気に包まれはじめていた。  庭先では、父親の正樹が花壇に水やりをしている。  水を浴びたヒマワリが、プールから上がったあとのように、気持ちよさそうに太陽の方を向いている。   それを見ていると、次第に不安が込み上げてくる。  雨が降る日は、水やりなんてしなくてもいいはずだ。 「おねえちゃん、ぼく、がんばる」 「うん……たのんだよ」  しかし颯太のやる気に反して、午後になっても、一向に雨が降る気配はない。頭上には、雲一つない青空が広がっている。  「おねえちゃん、あめ、ほんとうにふるの?」  蝉の声が聞こえる中、美夏は自分に言い聞かせるようにうなずいた。  急に降るから夕立、というのはなんとなくではあるが理解している。  それに、もう後戻りはできない。  時刻は午後四時。  空は晴天のまま、その時は訪れた。   「行ってくるね。お留守番、頼んだわよ」  休日は、いつも両親揃って、車で買い物へ行く。  その間、美夏と颯太は留守番だ。  チャンスは一度きり。  夕立の中帰ってきた二人の元へ、合羽を着た颯太が傘を持っていく作戦だ。  駐車場からのわずかな距離ではあるが、きっと大事なことを思い出してほしい。  夕方の水やりでシャキッと背筋を伸ばしたようなヒマワリは、まだまだ明るい太陽の方を向いていた。  
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