夕立と黒い傘

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 颯太は自信満々にうなずいて見せたが、少し納得がいかない様子で疑問を口にした。 「かさをわたすと、なんでなかなおりするの?」  美夏はコホンと咳払いをして言った。  「颯太、あいあいがさって、しってる?」 「うーん、おさるさん?」  思わず吹き出した美夏の口元に、今度は颯太が人差し指を立てる。癪に障ったのか、そのムッとした表情に美夏は「ごめん、まだはやいよね」と、微笑みながら颯太の頭を撫でた。 「あいあいがさっていうのはね──」  美夏が目を輝かせて相合傘の魅力を説明していると、聞こえていた颯太の相槌が、少しずつ聞こえなくなっていった。  時刻は九時半を過ぎている。  颯太の顔は、緊張が解けたように穏やかな寝顔に変わっていた。  美夏はそれを見届けると、作戦の具体的な中身を考えていた。  なんとかして両親に再び相合傘をさせたい。そうすれば、きっと仲直りしてくれると信じている。  その根拠となる、母親の恵子から聞いた言葉を思い出しながら、目を閉じた。  あれは夕立が降る中、母親と一緒にスーパーへ買い物に行った、帰り道のことだった。  
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