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「うんめいの、かさなのよ」
「……うんめい?」
「フフ、颯太には、まだはやすぎるかな」
作戦実行を控えた前日の夜、暗い部屋で最後の作戦会議が行われていた。
大切な傘だ。
万が一、颯太が慌てて躓いたり、テンションが上がって作戦を口走ったりしたら台無しだ。隠されるかもしれない。
その大切さを説くために運命の傘のエピソードを話したが、どうやら男の子にはさっぱり伝わらないらしく、颯太の瞼は閉じたり開いたりしている。
「とにかく、颯太は、わたすだけでいいから」
コクリとうなずいた颯太は、スヤスヤと寝息を立てはじめた。
隣の部屋からは、相変わらず両親の声が聞こえてくる。
「もう、決まったことだから」
「そう……仕方ないわね」
やがて会話も終わり、両親が部屋に入ってきた。
美夏はまだ起きている。このあと、颯太にも内緒の仕込みをしなくてはならない。
美夏の頭の中では、会話やこれまでの経緯を聞くかぎり、父親の正樹の行動に対して、母親の恵子が腹を立てているという構図が出来上がっていた。
しかし美夏は知っている。
父親の正樹は頑固でなかなか本当のことを言わないが、母親のことを、とても大切に思っている。
母の日や誕生日は、美夏と颯太を連れて、こっそり買い物に出かける。
一番プレゼントに悩むのに、せっかく決めたプレゼントを渡すのは、いつも美夏と颯太だ。
母親から御礼を言われるのも、当然美夏と颯太だ。
プレゼントを渡すときには、決まってお手紙を書かされる。
「お母さん、いつもありがとうって、書くんだぞ」が口癖だ。
その気持ちを、なんとかして伝えたい。
怒らせてばかりいるのであれば、なんとかして伝えてあげたい。
両親の寝息が聞こえはじめる頃、美夏はむくりと起き上がった。
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