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「おとうさんもどこにもいかないし、なんでもいうこときいてくれるの?」
颯太の言葉に、美夏は半ばやけくそになってうなずいた。
「じゃあ、ぼく、みずあびがしたい」
「みずあび?」
「うん、ヒマワリみたいに、おみずをあびたい」
颯太の汗は、既にシャツの半分まで染み込んでいた。
どうしようか迷ったが、約束は約束だ。いざとなれば、水やりに失敗したとでも言えばいい。
美夏が水やり用のホースを伸ばし、蛇口を捻ると、勢いよくシャワーが噴出した。
空へ向けると、キラキラしながら颯太へと降り注いでいく。
「きもちいい?」
颯太のまぶしい笑顔に、さっきまでの憂鬱な気持ちも少し和らいだ。なんだか気持ちよくなって、さらに蛇口を目いっぱい捻る。
颯太が満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「きもちいい! あめみたい!」
瞬間、美夏の体が、ピタッと固まった。
──これだ。これしかない。
「颯太、ごめん! やっぱりもうすこしだけ、おてつだいして!」
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