審判者のペネロピ

　これは俺が、まだ小学生のガキだった頃の話。
　当時の俺は今と違ってチビで、結構根暗だったこともあっていじめられることが多かった。小学校一年生からもう最悪なクラスで、その結果二年、三年と上がってもちっとも友達ができやしなかった。完全に人間不信になってたんだな。
　でもって、教室の隅で本読んだり、絵を描いたりばっかりしてた。そういう奴って、一部のいじめっ子には体のいい的なんだろうよ。俺に対するいじめはどんどん悪くなってって、三年くらいの時はまさにピークって感じだった。物を隠されるとか殴られるとかも嫌だったけど、それ以上に嫌だったのはいじめっ子どもの玩具にされることだった。
　小学生男子のやるようないじめの一つに、“度胸試しと称して無茶なことをやらせる”ってのがあるだろ。その連中はまさにそういうタイプだった。俺の通ってた学校は結構な田舎町だったもんだから、学校の裏手には山があってさ。その山の中に一人で行って戻ってこいとか、墓場を一週しろとか、夜の学校に入って中をスマホで撮影してこいとか。逆らったら、前に撮られた恥ずかしい写真をネットとかにバラ撒くって言われたら、もう言う通りにするしかないだろ。――どう見てもそれ、ガチの脅迫じゃん、犯罪じゃんて後で気づいたけどさ。
　その年の秋にも、俺は奴らに度胸試しをやらされてた。
　もう空も暗くなった時間帯に呼び出されてさ、裏山に一人で肝試しに行って来いって背中蹴られたんだよ。いつもの裏山だったけど、その時の俺はいつも以上に嫌でたまらなかった。
　何故か？
　そもそも奴らが今更裏山を使った理由が理由だ。裏山にあるボロい廃屋（昔は誰かが山小屋として使ってたらしい？今は老朽化して床にも壁にも穴が空いてるオバケヤシキだが）に、最近出入りしている人間がいるという情報が入ったのである。つまり、ホームレスか誰かが、無断で小屋を使って寝泊まりしているのではないか？というのだ。

『俺、そういうのヨウチューブの動画で見たんだぜ！山奥の小屋にな、女連れ込んで監禁とかすんだって！』

　ガキ大将は、そう言ってへらへら笑っていた。

『ヤクザとかが、借金のカタに女浚ってあんなことやこんなことをおおおおお！』
『あんなことこんなことって？』
『知らねー。動画では酷い事としか書いてなかったし』
『笑うー、駄目じゃん、知らねーんじゃん』