最初の街ドルニグ(後編)

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最初の街ドルニグ(後編)

「さて、依頼分は達成してるし、この辺でいいか」  今日も荷車に依頼の荷を詰め込み、一息ついたところで昼食だ。といっても日の傾きから昨日よりは遅い時間であると推測し、まだホーンボアの解体もあるのだと慌ただしい休息である。  今日の昼食も昨日と同じ店のものである。ユウは昨日の帰り道、エリックさんからあれこれ街の情報を得ていたのだが、薬屋を優先した為に露店巡りまではできなかったのだ。  とはいえ私は昨日と同じホットドッグだが、ユウはソースの違うものを選んでいる。赤と黄色が交互にかかったそれは一見してケチャップとマスタードに見えるが、恐る恐ると言った様子で口をつけたユウ曰く、どちらも辛い、らしい。ウインナーの肉汁がなければとんでもなく食べにくい、と。 「美味いけど、結構舌に残るな。果物も進められるわけだ」  そう言ってユウは昨日自分が林で採った、すべすべした真っ白な果物も皮を剥いて口に運ぶ。美味いからと一口分けてもらったが、甘そうな香りが広がり果汁もたっぷりであるのに、口に含めば意外とさっぱりした、爽やかな味わいだった。甘さ控えめの蜂蜜レモン。そんな感想を二人で出し合い、ギルドが林の調査を終えたらもう少し集めに行こうと決める。  ちなみに外で採れる自然の食べ物は、大体が私が集落や隠れ家の森で得た知識で食べられるものを選別しているのだが、ここは住んでいた場所より大分離れた土地である。  当然知らないものも多く、そういったときはユウが指輪に収納して持ち歩いている、おじいさまからもらった図鑑を二人で利用している。図鑑といってもニホンで見たような美しい写真のものではなく、大体が色なしの手書きの絵であるが、特徴が細かく書かれている為重宝しているのだ。  昨日採った果実はヒエルの実というそうで、非常に果汁が多く、自然に育つ水筒のようだと表現されていた。また、この果汁と、この果実の育つ樹の葉をすりつぶして混ぜ合わせて漉すと、解熱効果のある薬が作れるらしい。  ニホンに比べて衛生的な生活ではなく、その分身体も慣れているとはいえ、そういった情報は大歓迎だな、とユウは採りに行く気満々だ。解毒剤や気付け薬が高価だったので、なるべく自分で調合できそうなものは自分で、といったところだろう。  しかし恐らく、薬が必要になるのはユウではない。ユウは一年前のあの日から身体能力が驚異的に上がっただけではなく、怪我や病気といった不調に対しても高い抵抗力と回復力を持つようになったのだ。実は、森で毒物を試しても平気だった、と言われた時は悲鳴を上げたものである。  フェニックス自ら蘇生させた小鳥のルリを含む私たちは恩恵を今も得ており、私やルリまで普通と比べると高い回復力を持っているようだが、ユウはそれだけではなくドラゴンの魂核をも己の身の内に宿している。  七日間の昏睡状態を経て身体が作り替わり、今もなお経験を積むことで力が安定し、結果強化されているという。ユウ曰く既にドラゴンの自我も記憶も何もないそうだが、何かが変わったことを自覚もしているようで、今でこそ乗り越え制御しているようだが、初期はひどく不安定であった。苦しんだ分、ユウは自身が普通にすごしているならば滅多に薬に頼らない身体であることはよくわかっているだろう。  つまり、ユウの行動は私の為だ。文句などあるはずも無い。 「でもこの果実、ルリ食べないね。なんでだろう。ルリー」  声をかけるとチイと鳴くものの、私が持つ食べ物を普段は欲しがるくせに、ルリは一度つついたあとすぐぷるぷると震え、それ以降つんと顔を背けて興味を示さない。感覚としては『いや!』という強い嫌悪感を感じ、それ以上は勧めず、ごめんねと謝って他の木の実を取り出す。 「鳥は嫌いなのか? さすがにそんなのは書いてなかったな」 「まぁまだいっぱい木の実はあるからいいんだけど、鳥に何か悪いものかもしれないから覚えておかなくちゃ」  幸いにしてこちらが食べる分には構わないらしいルリに他の実を与え、食事を終える。さて次は解体だ、とユウが指輪に収納したホーンボアを取り出そうとしたところで……チッと小さく鳴くルリにつられるように視線を動かし、その背後に動くものを見つけた私は魔力を練り上げ、叫んだ。
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