prologue

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 こうして連れ込まれた先で実験体にされ、ぼろぼろになりながらも生贄の死体が積みあがるここにわざわざ這いずってきた彼が何を後悔しているのかを察して、否定したかったが声は僅かな息を吐きだすだけだった。  話しかけられてはいるが、それはまるで答えを待っていないような、謝罪ばかりが繰り返される。恐らくこの死体だらけの魔法陣にいる私を、彼は死んだものと思っているのだろう。それでもぼろぼろの体でここまできてくれたのかと、少しだけ後悔した。  村が襲撃に合う前に冒険者になることを決めて抜け出していれば、留めていなければ、こんなことにはならなかっただろうか。  彼は確か、冒険者になるのは、生きたいからだと語っていた。生きるとは? 恐らく、ただ命があればいいという意味ではないのだろう。  詳しくは聞いていないが、彼はどうやら劣悪な環境にいたらしい。襲撃時に見たその戦闘技術はまだ冒険者にすらなっていない筈なのになかなかのものだったように思うが、結局は私の狭い視野の中の話だ。  生きたい、私はその思いが足りなかったから、集落から出るのを躊躇ったのだろうか。 「……あ」  思わず、声を出そうとしたところで掠れた音が零れる。視線の先に炎が散った。あれは、フェニックスだ。私でも知っているほど有名で、あんなに美しい伝説上のような生き物まで捕らえていただなんて、この国の人間は随分と強欲で愚かしい。その尾羽があれば、死んですぐ、魂が抜けきる前であれば、命を蘇らせることができると言われている美しい炎を纏う鳥。その美しさにとろりと思考が蕩け、ふと、つい先ほどの言葉を思い出す。  生きたい、と願う彼の言葉を。
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