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「ミ、ナ……?」
どうやら私が生きていることに気付いたらしいユーグリッドが、ずりずりと近寄る音がして、視界が翳る。始めはぼやけた視界が徐々に鮮明になっていくと見えたユーグリッドは全身ひどく傷だらけで、体内から暴走するように魔力が溢れていた。だがそれも、先ほどに比べれば残り滓か。
彼は這いつくばりながらも、手に何かを持っている。……手だ。ああ、私の手を握ってくれていたのか。感覚がないから、わからなかった。
「ごめん、な」
「ちが……わた、かはっ、が、迷って、たから、ご、んなさ、」
「ちがう、巻き込ん、で、ごめ……」
とても、優しい強さを持った声だった。人が苦手な私だったが、その声はなぜか、そう、懐かしい気がして好きだと、それで森で話を聞いていたのだ。
だが次の瞬間、ごぼり、と何かが溢れるような音がして、そばにきていた彼の口から真っ赤な何がが流れ出る。私を見るその瞳が、徐々に、まるで光を失ったように濁り、動きを止め、目が合っている筈なのに合わないと感じた。
ああ、……ああ。彼のほうが、ぎりぎりだったのだ。視界がじわりと歪み、ひゅう、と自身の喉が変な音をたてる。
人は恐ろしい。なんて強欲なのだろう。どうして、こんなことが起きてしまったのだろう。
ひどく記憶が混乱し、自分の記憶の中にやけにこの状況に詳しい知識があることに、ふと、漸く、違和感を覚えた。竜の魂核の存在だとか、この惨状の理由だとか、そういったものになぜ私は気づいたのだろう。
その違和感に疑問を覚えた時だった。
「ぐっ」
突如脳内にあふれ出す記憶の波。寄せては引いて、そして押し寄せるその記憶は、間違いなく、……『ここに生まれる前の』記憶だった。
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