最初の街ドルニグ(中編)

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 私は治癒師ではない。出来るのは前々世の力と知識を強引に組み合わせて生かした『付与』であり、前々世でも知識のみで技術のなかった治癒についてはやらないで薬に頼ったほうがマシレベルである。  せめて「持続的に体力を回復する」だとかそういった効果であれば微々たる可能性もあるが、問題は気を失っている女性の方だろう。無抵抗状態なのだから、かなりまずいのかもしれない。  付与術士の味方支援はそもそも、先手を打つのが主流なのだ。事前に状態異常抵抗を付与する、事前にダメージ反射を準備する、致命的な傷を受けないように常時回復効果を与える……そんな、後手に回ると、弱い職。 『全てを流し清める正常なる水をここに、清浄の水』  ただ身体を綺麗にするような用途ではない為、詠唱し効果を高めた水を作り出し、二人に注ぐ。意識のある男性に構ってはいられず、飲んで、と叫んで、慎重に量を調整し押さえて仰向けにした女性の口に含ませる。がふ、と吐きだすが、少しでも口内に入ったのならそれでいい。なにせ、口の中の傷がひどい。 「ポーションは!?」 「わからなっ、くうっ、ん、たぶん溶かされた! それより、あの男はっ、大丈夫なのか、アルラウネだぞ!」 「ユウは負けない!」  事実ユウは、新たに伸びる蔦を全て刃で切り落とし、距離を測りながら根に攻撃し、つぼみのようなものから噴出される何かの水を全て回避している。それも、こちらに被害がないよう引きつけながらだ。  炎の魔法を派手に使えれば早いのかもしれないが、ここは森だ。すぐに消火するならまだしも、ここに動けない二人がいる以上この距離では使い難い手である。そんなユウの状態を確認しつつ、私はウエストポーチから小分けにしたポーションを取り出し、男の前に転がす。もう一本取り出して女性の口にあて、詠唱も続ける。 『効果増幅』  単純に、ポーションの効果を増幅する付与だ。いくら特殊な環境からここにきて、グリモワールや大きな魔力を持っていたとしても、私は付与術士として一年目であり、決して治癒師ではなくて。そして私たちは冒険者一日目である。  ……序盤からアルラウネの媚薬だなんて普通の解毒剤じゃ効きやしないものの薬なんて、持ち歩いていなかった。備えあれば患いなしと言えど予想外過ぎる。  媚薬の効果は魔力によるものだ。恐らくローブの女性は、魔力で抵抗できるからこそ気絶させられ、その抵抗を極力阻止されたのだろう。  処置はした。ユウの援護に、と立ち上がり、二人に防御結界付与をしようとして……その対象をローブの女性だけに変更する。媚薬効果がどう見ても切れていない男性と女性を同じ結界に入れるわけにはいかない。 「ユウ、行くよ! 『通り塞ぎて流れ断ち、痺れよ』」 「ああ! 『風よ宿れ』」  私の術の発動と同時にほんの一瞬アルラウネの動きが鈍る。それだけあれば十分だった。ごう、と風を纏う刀が、威力を増し、速度を上げる。目で追えないような移動を見せた刃がアルラウネの根と蔦の攻撃を全て切り裂き、その隙にユウの術が練りあがり完成した。 『切り刻め、風の刃』  アルラウネの葉と花弁が、まるで吹雪のように周囲を染めたのだった。
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