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「たお、した……」
呆然と、いや荒い息を押し殺して男性が舞い散る葉と花びらを見つめ、そろりと怯えるように私、そしてユウに視線を向けた。
ユウは周囲を見回し、無表情のまま刀の汚れを拭って鞘へと戻す。アルラウネが完全に動きを留めていることを再度確認して、私の名前を読んだ。
「これ、どこ持っていけばいいと思う?」
「アルラウネは……確か特徴的なのは背中にある小さい花だったかな。他に見られない種の花だとか……体持っていくわけにもいかないしなぁ。とりあえずアルラウネが死んだ時点で蔦も媚薬効果はもうないから、触れても大丈夫な筈」
「つまり蔦を媒介にした術だったわけか。道理で普通の解毒剤じゃきかないわけだ……よっと」
ほぼ女性の上半身と言ってもいいアルラウネではあるが、ユウは特になんでもないといった様子でぶつんと音を立てて、アルラウネの背にある手のひら大の花を回収した。その身体をそのままうつ伏せの状態で放置する。
魔物であるものの処理は、素材となる部位の回収後は大抵、燃やすか魔葬という魔力を還す術を使い残らないようにする。だがアルラウネは植物系の魔物であり、植物系はアンデッドにはならないと言われている為、背の花さえとってしまえば他の植物同様土に還るのを待ちそのままにするそうだ。これは植物系の魔物が死んだ後は、魔力が滞るせいで通常よりかなり急速に体が融け消失する為だろう。
魔葬はどこに還されるのか、その場に魔力が散るわけではないのでわからないというのが今の常識だが、私が前に住んでいた世界では空に浮かぶ大魔法陣に還るとされていた。世界に魔力を満たす為の源だったと言われていたが、この世界ではそういった情報はないようだ。
ユウはこれで終わったとやや急いで私のそばまで来ると、未だ呆然としたままの男に向き直り、荷物か服は残ってないのかと尋ねる。
「すま、ん。アルラウネが……水を吐きだしていただろう、あれが粘液で、衣類の類は全部その、溶かされて」
「ったく厄介な魔物だな。仕方ないか。ほら、返さなくていいからな」
ユウがぽい、と投げたのは、指輪に収めていた大判の布だった。寝る時に使うかと持ち歩いていたものだが、それを二枚。一枚を私に渡してきたので、ローブの女性を隠すように覆い、横で紐を使って縛り解けないように固定する。
「な……収納魔道具だと……? お前ら、本当に黒なのか?」
「黒なのか、って、そもそも黒でくすぶってるならまだしも俺たちは登録したての新人だぞ。新人全員黒ランク依頼が精一杯の実力しかないと思うのか?」
「……そうだよな。どうにも、冒険者ってやつはランクが実力評価になるせいで、思い込んでたみたいだ。……相手の力量も知らずとんだ間抜けだぜ。悪かった」
「……いや。それで、動けそうか。俺たちはすぐ戻らないとまずいんだが」
「あっ!」
ユウの言葉にはっとして、頭から血の気が引く。なんだ、とユウに視線を向けられて、慌ててその腕を引いた。
「どうしよう、あの人あんな死体だらけの所に放置してきちゃった! 血の匂いで魔物や野生の獣が来るかもしれない、戻らないと!」
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