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さすがに寝覚めが悪い。冒険者は自己責任で旅や依頼に出るといえど、あの人は明らかに助けを求めていたのだ。
「……そういうと思った。大丈夫だろ、魔除けの術をかけてきたから余程馬鹿なことをしなきゃ死なない」
「死体だらけ、って、なんの話だ?」
魔除けの術とは、魔力の低い魔物や魔力を持たない獣を遠ざける効果のある術だ。といってもそれに任せて野営できるほど確かなものではなく、あくまで気休め程度である。
私たちの会話に男が困惑した様子で立ち上がるが、ユウに呆れたような視線を向けられて、びくりと震える。一応立てるくらいには回復しているようだが、まだどこか辛そうだ。
「あんたの仲間の話だ。悪いけど足手まといだから、あの女が引き連れてきた猪の死体の中に置いてきてるぞ。この状況はあれのせいか?」
「……あいつ! あいつがアルラウネの葉を踏んだせいで! マーナが何度も気をつけろって言ったのに、そのくせ踏んだことを黙ってたせいで襲われて俺を突き飛ばしたかと思えば真っ先に逃げだしやがったんだよ!」
「……だろうな」
どこか呆れたようにため息を吐いたユウが、それでも早く戻らなければと歩き出し、気を失った女性の前で止まり……ちらりと私を見た。
「まだ目は覚めないか。媚薬は抜けてないな?」
「ポーションを効果増幅で飲ませたし体力はある程度は回復したと思う……けど、専用の解毒剤は手元にないし、清めの水で傷口を洗い流しただけだから媚薬はまだ残ってるかな……」
ユウがものすごく困った様子を見せているが、理由はわかる。催淫状態にある女性を男のユウが運ぶのは、という話になるわけだが、さてどうするか。
私の身体強化はまだ制御が完璧ではなく荒っぽいため、ぶん殴るならまだしも抱えて運ぶなんて逆に女性を傷つけかねない。
私たちがホーンボアを倒した場所からここに来るまで、ほぼ時間はかかっていない。あの場を離れてまだ二十分といったところか。すぐに戻ればまだ、とユウが女性に手を伸ばそうとしたところで、待ってくれ、と焦ったように助けた男が割って入る。
「こいつは俺に運ばせてくれ、誓って手は出さない!」
「……そっちもまだ媚薬効果は抜けてない筈だけど?」
「確かに完璧だとは言えないが、悪いが自分の女が媚薬に侵されているのに他の男に運ばせるわけにはいかないんだ。お前もわかるだろ?」
「事実か?」
「当たり前だ! マーナは俺の恋人だ!」
「なるほど、ならそっちに任せるが、自分の恰好が布を巻いただけなのは忘れるなよ。その状態で我慢が効かなくなっても置いていくからな」
わかった、と頷く男性がなんとか女性を抱えたところで、行くぞとユウに手を引かれ歩き出す。
さすが前衛職というべきか体力は随分とあるようで、男性は余裕とまでは言わないが、足取りはあまり遅れることなく林を抜けた。そこで漸く自己紹介となり、男性の名前がエリックであること、ローブの女性の名前がマーナリアであること、そして逃げ出した弓使いの女性がエリザであると伝えられる。こちらも名前だけを伝え、エリザという女性が来てからの状況を説明し、あとは面倒を増やすのはごめんだとユウが収納魔道具について言いふらさないように約束させた。
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