最初の街ドルニグ(中編)

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 どうやらエリックさんは、かなり事態を重んじているようだった。  兵士から解放されたあとすぐギルドへの道の途中にある店で外套を購入し、まだ目を覚まさぬ恋人の肌を隠すように袖を通させた後、彼はすぐにギルドに向かった。  本当は休ませたい気持ちも強いようだったが、彼はパーティーリーダーとして今回の件をはっきりさせねばならず、そしてその間彼女を宿で休ませることができない理由があった為だ。  というのも、彼らはパーティーを組んで三人で活動し始めて三か月ほどであるそうだが、どうやら宿は一緒に三人部屋を使っていたようで、今回のことで弓使いのエリザへの信頼を失ったことが、今すぐ宿を使えない理由だった。  つまり、宿に媚薬を盛られ気を失った恋人一人おくこともできず、かといってまだ目を覚ましていないとはいえエリザと一緒だというのも信用できない。そもそもこの状況の女二人を宿に残すのも問題だ。  今は気を失っている恋人に媚薬が効いている様子は見えないものの、その状態で一人で目を覚まさせるのはまずい、と。宿の客層的な問題もあるのだろう。  エリザの件はギルドに報告するつもりでいるらしいが、彼女を放り出すことはしない、とユウに説明していた。問題は自分たちの間で起きた件ではなく、己で倒せない敵を引き連れたまま新人のいる方に逃げ対応を丸投げしたこと。その癖己の権利は主張し、まだ日が浅いどころか初日の新人を言いくるめ、騙し、利用しようとしたこと。媚薬という条件下ではあったもののまだ意識があった段階で行為を迫るという行動を、素材剥ぎ取りの邪魔をしてまで行ったことなどなど、彼曰く完全アウトである事案がいくつも重なっていることが、今は放り出さない理由であるらしい。 「俺たちだけの問題なら、合わなかったと解散してそれでいい。だが他冒険者に迷惑をかけたとあれば、それはリーダーの俺にも責任がある。放り出していい筈がない」  そう言った彼は深く頭を下げていた。  とくに、他パーティーの討伐したものを己の手柄とすることはいくら冒険者ギルドが冒険者同士の争いには口を出さないといっても踏み越えてはいけないラインであり、報酬に金銭が絡むことからも、ギルドが『報酬金を渡す相手を違えた』『評価を違えた』となることは看過できない。その為一定のラインを超えるとギルド直轄冒険者による調査、捕縛、警備兵への引き渡しが行われるらしい。 「いいのか?」 「ああ。もともと良くない兆候は見られていたんだ。約束は守るし、ギルドの調査でも決してそちらに迷惑が掛からないようにする。たださすがに、黒が三つ上の等級とされる魔物を倒したことは誤魔化しようが、いや、誤魔化してはいけない部分になるが」 「まぁ倒すと決めたのは俺らだからな」  そうして事前に説明されたあとは、ギルド内で受付職員に想定外の魔物が発見されたことを報告し、その時のトラブルにより一人が問題を起こしたことを告げた。アルラウネの花を見せた事で受付に顔を出していなかった筈の職員……昨日私たちの登録をした男性が現れると、速やかに私たちは二階別室へと案内された。その際、荷車は全て、人間込みでギルドに回収されている。
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