prologue

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「おまえさえ死ねば!」  強い殺意の籠った言葉と思いが、刃となって胸に刺さる。痛さや熱さよりも、絶望が深く体を支配した。  狭いテントの中。珍しくも高い防御力を誇る魔術師であった『私』も、溜まった疲労に加え動揺して、ついに勇者と弓使いである友人の怒りを防ぐこともできずに受けてしまったようだった。  その弓使いの友人の腕の中に、胸を真っ赤に染めた、この旅で仲間になった筈の、友人でもある治癒師の少女がいた。それだけで、察してしまった。  違う、誤解だ。そう告げることもできず、かふりと息が喉の奥から零れると同時に、口内に血が溢れる。既に鉄臭い匂いもわからず、ひたすらに全身が燃えるように熱く、揺らぐ視界に泣き叫ぶ友人の姿を捉えた。 「おまえが殺したんだ、おまえが、どうするんだよ、もう世界は、……あああああ!」 「俺に振られても未練がましく纏わりついた上に、こいつまで女がいて幸せなのが、妬ましかったのか! もうお前は仲間でも幼馴染でもなんでもない!」  違う、『私』じゃない。あなたの大事な人を殺したのは、あなたたちの後ろで笑ってる、聖女と呼ばれ仲間であった筈の人だ。血だらけの少女の胸に残る魔力は間違いなくそう示しているのに、それを伝える喉は潰された。……やられた。  目の前の彼らは私にとって、仲間であった筈なのに。親に捨てられ、孤児院ではひどい扱いを受け、そんな中必死に協力し合って生きてきた大切な友人で家族だったのに。  その家族から『私』の恋人になった筈の、勇者に選ばれてしまった男は、確かにどこか自信と傲慢を履き違えるようになったり、勇者パーティーとして選ばれた聖女に心惹かれてしまったりしたが、『私』は納得して別れた筈だった。私は未練なんてなかったのだ。纏わりついたもなにも、私たちは同じパーティーである。むしろ別れたその後も押し倒された時は恐怖を覚えたが、それでも世界を守る為のパーティーを壊すことのないよう必死に断ったし、私が彼らに何かした覚えなんてない。  まして、弓使いの幼馴染の恋人にまで嫉妬する筈、ないじゃないか。あの子は私の良き相談相手で親友だったのだから。  よくよく見れば、勇者が新しく付き合い始めた聖女は、時折怪しい動きや言動があったのに。今彼女はその体に、なぜかどろりとした、魔族の魔力を取り込んでいた。謀られた、のだ。  なぜ、こんなことに。私じゃない、信じて。  泣き叫ぶ幼馴染の顔と、その後ろでにやりと口角を上げる偽物の仲間の顔を交互に見つめ、そこで『私』の『一回目の』記憶は途切れている。印象の薄い二回目もろくなものではなかったが、その間に、そう、確か――
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