最初の街ドルニグ(中編)

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「つまり、林でアルラウネの縄張りに気づいたユーグ殿のパーティーはシカの狩猟を諦め報告の為に林から離脱。直後草原でその林からエリザ殿が八頭のホーンボアとシカを引き連れ先頭を走る形で現れ、ユーグ殿たちが黒ランクであることを知っていた上で助けを乞い接近、合流直前で一人横に跳んでエリザ殿が逃れたことにより、ユーグ殿のパーティーが交戦。エリザ殿はそれを離れて見ていたのみ。二人でそれを殲滅したとわかるとエリザ殿はユーグ殿の荷車にホーンボアの討伐の証明の運搬を要求。報酬は街まで自身が護衛すること、そして自身の受けた依頼を一緒に完了扱いにすること、と発言。さらに、ユーグ殿に事情説明を求められたエリザ殿は自身の失態による緑等級の魔物、アルラウネの襲撃を仲間の失態とし、救助ではなく撤退を要求。ユーグ殿はこれを嘘だと判断し、取り残された冒険者の存命の可能性が高いと推測して救助へ向かった、と」  一度区切った職員さんの言葉に、ここまでは私たちでなければわからない話だということで、頷く。次にエリックに視線を向けた職員さんは、アルラウネに襲われるまでの経緯を確認し、エリックの同意を持って、メモしていた紙をぺらりと捲る。 「ユーグ殿は鳥の飛び立つ方角から推察し、アルラウネを発見。既に蔦に拘束されたエリック殿、マーナリア殿の解放、保護、治療をミナ殿が担当、それが終わるまで引き付ける役をユーグ殿が担当し、最後は二人で緑等級アルラウネ討伐。証明部位を得て林から離脱し、媚薬効果が進行し動けずにいたエリザ殿と合流したが、その際依頼任務遂行の妨害行為を受け、エリック殿も認める上で対処。ホーンボアとシカの一部を持ち帰り、残りは適正に処理した上で帰還と」 「ああ、間違いない。ただひとつ付け加えさせてもらうなら、彼らは戦えないエリザに敢えて魔除けの術をかけた荷車をそばに残すことで守っている。エリザはそれを持ち逃げしようとしていた節があるが、彼らが彼女を見捨てたわけではないと強く進言させてくれ」 「そうですか。これらのことから冒険者ランクGエリザは重要参考人として身柄をこちらで預かることになるでしょう。ユーグ殿、ミナ殿に関しては元より完了していた依頼とは別に、一つ上である茶等級依頼のホーンボア討伐を完了とし報酬が支払われます。アルラウネ討伐に関しては、明日こちらから林への調査が入りますので、追って連絡することなりますがよろしいでしょうか」 「はい」  すぐに頷いたユウとは違い、その隣に座っていたエリックさんは目を丸くし驚いた様子を見せた。淡々と紙を纏めた職員さんが、どうしました、と無表情に問いかければ、いや、と戸惑う様子を見せたエリックさんが、言葉を選んで口を開く。 「正直、倒すのを見ていた俺ですら驚いたものですから。新人の彼らがたった二人でホーンボアの群れやアルラウネまで討伐したと、事実だとしてもどう理解してもらえばいいのかと悩んでいたんですよ」 「……普通であれば信じられない出来事なのかもしれませんが、珍しいとはいえ新人が強いことはありえない話ではありません。何より私は彼らの『師』に心当たりがありますので。あくまで確定した結果が出るのは今はまだ意識のない重要参考人の取り調べと、アルラウネに関しての調査後になるでしょうが」 「……なるほど、やっぱりただの新人じゃなかったってことかぁ」  がりがりと頭をかいたエリックは、立ち上がる職員さんの前で、がばりと頭を下げる。 「なんにせよ、マーナの……マーナリアの治療、感謝します」 「あの林は、他の依頼場所とは違いギルドが初心者経験用として念入りに調査し、茶等級までの扱いとして依頼の開示をしてきました。緑等級の魔物がいたことは大きな問題です。ギルドとしても無暗に有望な冒険者を潰してしまうわけにはいきませんので、当然の処置でしょう。お疲れ様でした」  かつかつと扉に向かう職員さんだったが、一度振りかえると私たちに視線を合わせ、僅かに頭を下げる。 「ドルニグの街ギルド職員、ディートヘルムと申します。何かございましたら私まで」  その後立ち去ったディートヘルムさんと入れ替わりでやってきたギルド職員の治癒師にエリックさんが呼ばれ、私たちも今日は報酬を受け取って終了となり、朝とは違う受付職員から無事全ての依頼の報酬を受け取った後、漸く宿へと戻ることができたのだった。
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