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「水ありがとう、助かった」
「それくらいいつでも。今日はお疲れ様でした」
食事を終えて部屋に戻った私たちは、部屋の真ん中にロープを使い布を広げて張った仕切りを作り、それぞれ私の用意した『清浄の水』を使って身体を清めていた。冷たいのが難点だが、石鹸なしでも十分汚れや汗が落とせる水は大活躍だ。とはいえ浴槽があるわけでもないので布で拭う程度であり、湯に身体を浸からせ疲労を取ることができないのは残念な部分であるのだが。
すぐに魔道具である防具に着替えられるようにしつつも、少し楽な部屋着となったところで、袖をまくって水を張り替え、衣服の洗濯と、ついでに今日使った麻袋や手拭を洗う。もういいか、と問われ返事をすれば、少し布を避けてこちらに顔を出したユウが、ぴたりと動きを止めた。
「……今いいって言わなかったか?」
「え? 言ったよ?」
「お前なぁ……今日アルラウネと戦ったばっかなんだぞ、あんまり男の理性を過信しないでくれ」
「……はい?」
言われた意味はなんとなくわかるのだが、己の姿を見下ろして、首を傾げる。今の私は洗い物をするために腕こそまくっているが、それでも肘から下が出ている程度であるし、服自体は隠れ家にいたころと同じ、なんの変哲もないロングスカートのワンピースである。
これで駄目なら、むしろ助けられた当初の大きい服を紐で縛って着用していたころのほうがアウトだった筈だ。
「馬鹿、頭だ。髪乾かせ」
「髪?」
「……もういい。洗い物途中なんだろ、前みたいに俺がやるから櫛貸せ」
「え、ありがとう! ユウ上手いよね、すごいさらさらになる」
「風と水の魔法の制御を頑張るんだな」
隠れ家にいたころ、今よりまだまだ属性魔法が上手く制御できなかった私に比べ、天才的に魔法を扱えていたユウがよく、髪を乾かしてくれていたのだ。
曰く、もったいない、と。両親に鬱陶しいとよく切られていた私の髪は、ユウと会った頃短いざんばら髪であり、薄汚れていた筈だ。隠れ家では師匠の趣味でしっかりしたお風呂があったのだが、清潔にできるようになったのは嬉しくても手入れする知識がなかった。
前世のドライヤーを思い出しても制御もできず適当であった私より、上手く風を制御できるユウがもったいないと手を貸してくれるようになったのである。
洗ったあと適当にまとめていた髪がそっと解かれる。しっとりとした重さが背にかかるくらいは伸びてきたのだと思えば、少し感慨深い。
「相変わらず綺麗な銀だな」
「この世界はいろんな髪色があって楽しいけど、私はユウの黒髪もいいと思うよ。日に当たると少し青っぽいよね? 不思議な色」
「こっちじゃ整髪料なんてほとんどないし、男は大して髪に手をかけないけどな。香油は使わないのか? 師匠が最初の頃薦めてた気がするけど」
「香油かぁ。師匠が言っていたのは冒険者になる前でしょう? 正直魔物と戦うのに特徴的なにおいなんてつけてどうするのかと思ったけど」
「まぁ確かにそうか。前世はどんな感じだったんだ?」
「そんな環境じゃなかったかな?」
「……そうか。ま、稼げるようになったら冒険者が使えるやつでも探すか」
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