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「黄のエリックが仕留め損ねたホーンボアの群れを討伐したらしい」
「ホーンボアを仕留め損ねたぁ? そいつは寝ながら戦ってたのか?」
「いや、エリックは盗賊に襲われたんだろ?」
「いや、あいつのパーティーメンバーの弓の女がなんかやらかしたんだって話だぞ? その女を捕まえるのに新人らが手伝ったって話だ。女が盗賊と繋がってたんじゃないか?」
「身内の裏切りかよ、あいつも人を見る目がなかったな」
ちらほらと聞こえる話に事情を理解し、ちらりとユウと視線を合わせる。噂の内容から推測するに、恐らく門のところで兵に説明していたエリックさんを見た誰かが流した噂に推測が混じったのだろう。
「まぁ目立たないわけなかったな、エリックはあんな状態で門に来たわけだし、弓使いは落ちないようにとはいえ荷車に縛って固定してたし」
「そうだね……ギルドにもまったく人がいなかったわけじゃないし、彼女、ギルド職員に連行されてたし」
周囲に聞こえないように囁き合って、若干の居心地の悪さを感じながらユウと依頼を探しに向かう。……最も、ユウはやっぱりあまり気にしていなかったようで、あからさまに視線を向ける人の横をするりと通り抜けていたが。
「昨日とあまり変わらないな」
「ええっと、でも林のほうの依頼がほとんどなくなってるような」
「あーそっか。えっと昨日はマンドラゴラが一回の扱いだったから、五回分か? ランクアップはあと十五回か」
「これはどうかな? この街に来る前に通った川のある小さい森のうさぎの狩猟とスライムと、あとこの薬草も採れると思う」
「三つか、うん、いいな。それにしよう」
紙を纏めて受付カウンターに並ぼうとしたところで……なぁ、と声をかけられた。剣を腰に下げ、使いこまれているらしいレザーアーマーに身を包むエリックさんより年上に見える男だ。
「お前らだろ、エリックのパーティーが騒ぎになってる時一緒にいたの。何があったんだ?」
「その件についてはギルドかエリック本人に聞いてくれ、俺たちはその場に居合わせてホーンボアと戦わざるを得なかっただけだし」
「そのエリックが新人に手伝わせるのが意外でな。盗賊が出たのか? まさか倒したのか」
「いや、盗賊は俺たちは見てないな」
やっぱり嘘か、エリックが倒したのか? と周囲がざわめき、林なんて街のそばに盗賊が出たなんて話聞かないし、と数人が頷く。掃討依頼もないぜ、という彼らは、それなら大丈夫かと、どうやら盗賊の心配をしているようだった。
エリックさんはどうやら、顔が広くある程度実力が認められている冒険者であったようだ。そんな彼が昨日の身ぐるみはがされたといってもいい状況になり、ぼろぼろで布に包まれたマーナリアさんの様子もあって、同ランク程度の冒険者たちはそれ程面倒な盗賊が出ているかもしれないという懸念に依頼選びに苦戦していたようである。
他にも様々な視線を浴びてはいたが、さすがに忙しく人の多い朝のギルド内とあって、直接絡んでくるような人は出なかった。
受付は昨日のナタリアさんの隣で、私たちの受付をしたふんわりしたイメージの女性がナタリアさんに恨めし気な視線を送られる。が、それを気にした様子もなく受付の女性はにこにこと手続きを終え、最後にギルドカードを返却する際、私の分は先に差し出された為素直に受け取って……同じく自分のカードを受け取ろうとしたユウの手は何故か上下から両手で挟み込まれるように手を添えられ、大切なものを包むようにそっと返却される。
「昨日のお話、聞きました。大変でしたね……また来てくださいね、待ってます」
……どうしてこうなった??
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